後輩のヴァイオレットフィズ【pi】 ページ15
残業がやっと終わり暗い夜道を歩く。今日も疲れた。相変わらず仕事多過ぎと頭の中で愚痴りながら歩いていた。ふと、空を見上げると星が見えた。こんな所でも星がよく見えるのねなんて空を見上げながら歩いているとふわりと煙草の匂いが鼻をついた。歩いているとその匂いは徐々に近づいていった。
『あ』
目に移ったのはバーテンダーの服装に身を包んだ会社の元後輩だった。彼はバーらしきお店の裏で煙草を吸っていた。Aは彼の事はよく知らなくて顔しか知らなかった。部署が違うから数回しか話した事がない上に最近、突如会社を辞めたからだ。
煙草を吸っていた彼がAに気がつき声を掛けてきた。
「こんばんは。こんな夜分にどうしたんですか？」
『残業……帰りです……』
残業なんて自分で言ってAは悲しくなってきた。酒でも飲んで今日は早く寝ようと考えた。煙草を吸っていた彼は持ち運び用の灰皿に煙草を押し付け火を消して処理した。
「俺この裏のバーで働いてるんすけど来ますか？ちょうど暇してたんです」
彼はそう言って親指で後ろを指差した。Aは断る理由がなかったのでその誘いに乗る事にした。
「折角なんでカウンター席どうぞ」
案内されてAはカウンター席に腰を下ろした。実はバーなんてお洒落な所入った事がないので内心ひやひやしている。反対に彼はとても落ち着いた声で接客してくれる。
「ご注文はどうしますか？」
Aは困惑した。カクテルなんて滅多に飲まないからよく分からない。困っていると相手が口を開いた。
「酒は得意な方ですか」
『ん、嗜む程度に……』
「味とかどうします？色々ありますけど」
『おまかせでって頼んだら、困ります？』
「いえ、大丈夫です。おまかせですね。俺が得意なカクテル作ってきますから、待ってて下さい」
そして、カランと音を立てて置かれたカクテル。切り分けられたレモンの入った、透明感のある紫色のカクテルだった。
『これは？』
「バイオレットフィズです。さぁ、召し上がって下さい」
シュワシュワと気泡が沸いていて美味しそうだ。妖艶な雰囲気の漂うカクテルを持つとカランと氷が鳴った。
まずは、一口飲んでみた。すると、思っていた以上に甘くて飲みやすかった。スミレの香りとレモンの甘さがよくマッチしている。
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作者名：雪だるま | 作成日時：2019年10月23日 21時
