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44、ここはやわらかい行き止まり ページ44

××



「……」

「……」


無言で他人の帽子を被る私に中也先輩は言葉を失っていた。あまりにも無教養だと自分でも理解しているものの、この帽子の虜になっていた。


「ありがとうございました」


十分に堪能した私は自分の頭から帽子を取ると中也先輩の顔にそっと置いた。視界が塞がられ、多少苛立ったように彼は帽子を頭へ移動させる。


「……」

「……」

「……では、私はこれで」

「あっ、おい……!」


中也先輩の制止を無視して、殆ど逃げるように通路へ飛び出す。頭の中はマフィア相手にやってしまったという恐怖と、謎の清々しさでいっぱいだった。


「あっ、太宰先輩」


とにかく足早に歩いていると、目を閉じて壁に寄り掛かっている、太宰先輩を発見した。何処で拾ったのか、その手には遮光眼鏡が握られている。


「もうお帰りになったのかと思いました……」

「はは。流石にそこまで薄情な人間じゃあないよ。Aちゃんと敦くんに懸賞金をかけた出資者の正体を探ってたのさ。組織の名は組合(ギルド)


組合(ギルド)。当たり前だが初めて聞いた組織名に戸惑った。一人困惑している私を置いて、太宰先輩は歩んで行く。何気無しに、下を向く。出口判るのですか、そう問うと彼は笑った。


「マフィア内部は大体把握してあるからね。
一見、複雑な迷路の様に思えるけど意外とその造りは単純なのだよ」

「……凄いですねぇ。太宰先輩は。大人は、すごい」

「凄くなんてないさ。大人は可愛そうだよ、大人とはつまり、裏切られた青年の姿なのだからね」

「だから、だから、太宰先輩は死にたいのですか」

「私は自分が何故生きているのか、全然判らないのだよ。君は何故生きてるんだい?……なーんて。意地悪な質問だったかな。顔を上げてAちゃん」


そっと顔を上げると、視界に鮮やかな夕焼けの景色が広がった。気がつけばいつものヨコハマの街。先刻までは確かに血生臭い場所にいたのに。まるで瞬間移動でもしたようだと目を見張っていると太宰先輩は微笑みを一つ零す。


「あの、一つだけお訊きしても良いですか」


太宰先輩が振り向く。
私は迷いながら、ゆっくりと口を開いた。

 今、訊くのは矢張り無神経かもしれない。
 でも、今、訊かないと一生訊けない気がするのです。

マフィアである中也先輩と妙に親しげだった太宰先輩。そしてマフィア内部は把握してあるからね、という先刻の言葉。


「太宰先輩は、元マフィア──ですよね?」



**

45、ヨコハマの風が吹く→←43、その異能で終止符を



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黒灰白有無%(プロフ) - 試しにと思い読んでみたら迚も面白かったです!!賭ケ/グ/ル/イは少々爆笑 Aが割と多く出て来るのは珍しいですね。凄く良い話だったので其の儘続編も楽しませて頂きます!! (9月8日 3時) (レス) id: 1ab55170b6 (このIDを非表示/違反報告)
そよそよ - A''''わずか一話で死んだのにいいキャラだった (2023年4月14日 18時) (レス) id: 28bb2962c4 (このIDを非表示/違反報告)
モモンガ←? - すっごくこの作品大好きで何回も読んでます!!七竈ちゃん可愛くて大好きです!!!!!! (2022年8月25日 13時) (レス) id: e4f6a8b567 (このIDを非表示/違反報告)
ミカン - Aはいいキャラしてるんだよなぁ (2022年1月4日 8時) (レス) @page50 id: 168fc3a64e (このIDを非表示/違反報告)
neko - 太宰さん…。 (2020年5月11日 15時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:あんず | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2019年6月14日 21時

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