36、救世主というにはあまりにも ページ36
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目を開けて真っ先に飛び込んで来たのは、飾り燭台に照らされた男の顔だった。鴉の羽をもいで縫われたかの如く深い黒髪、奥の奥まで濁った瞳。美しいが何処か得体の知れないその雰囲気は私の背筋を凍らせた。
目だけ動かし、周囲を見る。
中央に備えられた執務机はブランド品に疎い私でも一目で高価だと判った代物だ。全体的にシックで高級感に包まれている。
何気なく自分の身体に視線を落とす。
両腕と両足に枷がはめられ、完全に身動きを封じられていた。
「初めまして。七竈Aさん」
夜そのものみたいな男はゆっくりと言葉を続けていく。絶対王者の風格に圧倒されそうになる。
「君の異能は知っているよ。百億もの価値がある異能。ありとあらゆる異能を魅了する異能。私達"ポート・マフィア"のような異能組織にとって、君の異能は実に手に入れたいものだ。
……しかし、君には欠点がある。
異能力者は君を傷つけられない。
けれどねえ、"異能力のない者"なら君に傷をつけるどころか君を殺すことも可能なんだよ。現に君は異能力を持っていない者にあっさりと気絶され、ここまで連れて来られた」
彼の言葉が真実だとすれば、私はポート・マフィアというとんでもない組織に誘拐されたようだ。息を吐く。どうしてこうも、非現実的な事ばかりが私に降りかかってくるのだろうか。
「……私を、解放して頂けませんか」
「それは無理な相談だ。君はこれから外国へ輸送される。七十億と共に」
「七十億?それって、中島先輩のことですか……?」
「あぁ、そうさ。だが本当に残念だ、君の異能はマフィアとして喉から手が出るほどほしいのだが……」
一瞬、心臓の鼓動と呼吸が停止した。
中島先輩を助けるにはどうしたら良い?
ここから出るには、どうしたら良い?
必死に最善策を探すが、矢張り一つしか思い浮かばなかった。あの時のように、上手くいくとは思えない。
でも、試してみる価値はある。
願いが届くように、強く、強く、祈る。
──わたしを、助けて!
「リンタロウ」
澄みきったソプラノの声だった。
顔を上げれば、金髪の少女が私を守るようにして立っていた。男性の顔が、初めて動揺に歪む。
「この子の願いを聞かないなら──」
それは、膨大な殺気。
「私がリンタロウを、殺す」
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黒灰白有無%(プロフ) - 試しにと思い読んでみたら迚も面白かったです!!賭ケ/グ/ル/イは少々爆笑 Aが割と多く出て来るのは珍しいですね。凄く良い話だったので其の儘続編も楽しませて頂きます!! (9月8日 3時) (レス) id: 1ab55170b6 (このIDを非表示/違反報告)
そよそよ - A''''わずか一話で死んだのにいいキャラだった (2023年4月14日 18時) (レス) id: 28bb2962c4 (このIDを非表示/違反報告)
モモンガ←? - すっごくこの作品大好きで何回も読んでます!!七竈ちゃん可愛くて大好きです!!!!!! (2022年8月25日 13時) (レス) id: e4f6a8b567 (このIDを非表示/違反報告)
ミカン - Aはいいキャラしてるんだよなぁ (2022年1月4日 8時) (レス) @page50 id: 168fc3a64e (このIDを非表示/違反報告)
neko - 太宰さん…。 (2020年5月11日 15時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
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