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『あのマイキー』との奇妙な交流が始まってから、あっという間にひと月が経とうとしていたけれど。彼と私との間柄を表す名前は未だはっきりとしておらず、未だ彼の視界に移るもののひとつとしての距離感のはかり方がわからないでいた。何か名前のある関係と称するには、あまりにも彼のことを知らな過ぎたからだ。
けれど、そんな現状を打開するような方法も思い浮かばなかった。
付け入る隙なんて与えないような浮世離れした佇まいが、自然と歩み寄ることを躊躇わせる。彼の見据えている、私の見知らぬ世界を搔き乱してまで入り込もうとするくらいなら、こうやって何も知らないままの、通りすがりの女の子のままでいる方がましな気がしたから。
「……ドラゴン」
見開いている本の内容が頭に入らないほど考え事に没頭していたけれど、目の前に座る彼がぽつりと呟いたことではっと引き戻される。ドラゴン。いったいなんのことだろうか、と首を傾げていると、彼はもう一度「それ、ドラゴン、だよな」とこころなしか頬を綻ばせながら口にした。羅生門、蜘蛛の糸、それらの文字列の右下にある文字。
「……龍之介、の龍…?」
「合ってる?」
「合ってます…」
「へへ、そっか」
「ドラゴン、好きなんですか?」
得体の知れなさを突きつけてくるような真っ黒い目に、ふわり、と光が差し込んだのは、どうやら気のせいではないらしかった。その光につられるようにそう質問すれば、彼は徐に手元にあった鉛筆を手に取り、「がっこうだより」の裏側に芯を走らせる。
「これさ、なんて読むと思う?」
「……黒に、龍…」
「わかる?」
「……?」
「ブラックドラゴン」
かっけーだろ。そう言って年相応の笑顔を浮かべる彼が眩しくて、思わず深く考える素振りを見せずに頷いてしまう。「だよな」、そう嬉しそうに頬杖を突く彼の、隠された素顔を目の当たりにした気がして、どこかしらに取り込まれてしまうような危うさと、ほんのちょっぴりの嬉しさの狭間で揺れ動いていた。
「……それは、何ですか?」
「…あー、うん。ちょっと」
「……」
「兄貴が聞いたら、喜ぶだろうなって」
扉はもう目の前で、後はノックしてドアノブに手を差し出すだけ。そんな状況に立たされた私の口は、自然と「お兄さんって、どんな人なんですか」と動いていた。
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まめ(プロフ) - 世河経さん» コメントありがとうございます!丁寧に読んでいただいたみたいでとても嬉しいです😭 これからもよろしくお願いいたします! (2022年4月7日 11時) (レス) id: e02a633284 (このIDを非表示/違反報告)
世河経(プロフ) - 久し振りに感嘆の溜息を吐いたような気がします……作品の持つ雰囲気に刮目しました!是非、更新頑張られてください!! (2022年4月2日 12時) (レス) @page2 id: 1e6cb0271b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みな | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/nymn624
作成日時:2022年4月1日 21時