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止めたいのに、自分の意思で止めることが出来ない。短時間で噛み砕くにはあまりにも数の多すぎる感情が、全て涙として流れ落ちてしまう。そんな中、彼らはどうすれば収集がつくのか、そんな話し合いに時間を割いてくださっているようだった。
コンビニでいかにも女が喜びそうな何かを買ってこい。一発ギャグをやれ。誰か頭でも撫でてやれ。熟考したのか否かわからない様々な案が飛び交う中、誰かの「もうこんな時間?」の一言で話し合いは強制的に終了された。
「ごめん、引き止めちゃって」
謝る必要なんていっぺんもないのに、とことん私を気遣うような言葉をかけてくれるのはやはり紫髪の人だった。いえ、あの、ごめんなさい、と頼りなく震え落ちる声を遮るように、あのさ、と低く貫禄のある声が続けて降ってくる。
「こっから一人で帰れそ?」
学校中の注目の的の龍の刺青、切れ長の瞼に包まれた黒目が目の前で圧を放つ。あまりの迫力に思わず息を呑むけれど、初めて会話をする『ドラケン』は見た目程恐ろしい人ではないように思えた。堅気ではないような雰囲気を醸し出して他者を圧倒するようなその存在は、口を開けば案外普通の男の人のようだった。少しずつ肩の力を抜きつつ、問いかけられたことに応えるべく顔を上げる。
「はい、大丈夫です」
本当はまだ少し体が震えているけれど、掴まれた腕から感触は消えないけれど。これ以上誰にも迷惑をかけるわけにはいかないと、本日何度目か分からない大丈夫、を口にした。
しかし、彼らは打ち合わせでもしたかのように「いやいや」と眉根を寄せながら言葉を返した。
「……?大丈夫です」
「大丈夫なわけねーだろ」
「さっきまでびーびー泣いてたのに」
「ほんとに、わたし」
「無理だろ」
「つか立てる?」
「た、立てます」
返事をする勢いでサッと立ち上がった途端、バランスを崩しかけてふらついてしまう。そんな私を見て、八重歯の人が「生まれたての小海老じゃん」と口にすれば、紫髪さんが「小鹿じゃね」と間髪入れずに突っ込んだ。さっきの今ので、完全に目を離したら危ういもの扱いをされてしまっている。そんなことない、の意思表示として、私は再び口を開く。
「あ、あの、わたし、ほんとうに」
「なあ」
今まで会話を聞き流していた彼が、すく、と立ち上がって溜息を一つ吐く。そして、一言だけれど、何よりもインパクトのある一文を私に投げかけた。
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まめ(プロフ) - 世河経さん» コメントありがとうございます!丁寧に読んでいただいたみたいでとても嬉しいです😭 これからもよろしくお願いいたします! (2022年4月7日 11時) (レス) id: e02a633284 (このIDを非表示/違反報告)
世河経(プロフ) - 久し振りに感嘆の溜息を吐いたような気がします……作品の持つ雰囲気に刮目しました!是非、更新頑張られてください!! (2022年4月2日 12時) (レス) @page2 id: 1e6cb0271b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みな | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/nymn624
作成日時:2022年4月1日 21時