検索窓
今日:5 hit、昨日:7 hit、合計:27,441 hit

15. ページ16

.



不公平。私が考えていることとは少しずれているような気がしたけれど、それでも、「話してみれば」、その言葉がどうしてだか無視できなかった。それだから、私はまた精一杯頭の中に散らばる言葉を搔き集め始めた。

周りにどう思われているのかを考えるのがつらくて、「空気」になることを選んだこと。
できることがそれだけしかないからやっているだけで、勉強はあまり好きではないこと。
「委員長」は半ば押し付けられた肩書であること。

ぽろぽろと零れていく話が軒並み惨めであることに気付いた時には全てが遅すぎたけれど、彼は否定するわけでもなく、かといって助言するわけでもなく、ただじっとこちらを見つめて聞き入っているようだった。それでもこんな話ばかり、と申し訳なくなり、咄嗟に読みかけの本に挟まった、リネン生地に刺繍が施された栞を取り出して口を開く。

おばあちゃんにもらったもので、ずっと大切にしているんです。唯一綺麗に彩られた思い出話は、彼には退屈な話だっただろうか。そう思ったけれど、彼は先ほど「ブラックドラゴン」の話をした時と同じような表情で「いいじゃん、大事にしな」と呟いた。

口下手で、面白い話なんて何一つできなくて。彼と並ぶとより一層、そんな私が惨めに映っている気がして。それなのに、彼は私を軽んじるようなことは言わなかった。不思議で仕方がなくて、思わず「私と話していて楽しいですか」と口に出せば、彼は「ん?」とまた怪訝そうな表情を浮かべた。


「わたし、空気、なのに」


私の「当たり前」が、「当たり前」でなくなっていく。ひび割れた殻が地面に散らばっていくたびに、本当にこれでいいのか、と呟く自分がいる。私が、私なんかが、なんて。

私は空気なのに。何年分もの「惨め」が詰め込まれた、そんな問いかけに、彼は子首を傾げながら言葉を返した。


「空気って無いと死ぬだろ」


多分、一人くらいはそれに気付くから。
別に無理して変わんなくてもよくね。

拗らせに拗らせた「ひとりぼっち」の捻くれた心に、相変わらずぶっきらぼうに告げられた言葉が染み付いて離れてくれなかった。



.

16.→←14.



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (90 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
91人がお気に入り
設定タグ:東京卍リベンジャーズ , 佐野万次郎   
作品ジャンル:アニメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

まめ(プロフ) - 世河経さん» コメントありがとうございます!丁寧に読んでいただいたみたいでとても嬉しいです😭 これからもよろしくお願いいたします! (2022年4月7日 11時) (レス) id: e02a633284 (このIDを非表示/違反報告)
世河経(プロフ) - 久し振りに感嘆の溜息を吐いたような気がします……作品の持つ雰囲気に刮目しました!是非、更新頑張られてください!! (2022年4月2日 12時) (レス) @page2 id: 1e6cb0271b (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:みな | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/nymn624  
作成日時:2022年4月1日 21時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。