29 ページ30
全てを察しているように、ふっかは「いつされたの？プロポーズ」と、口を開いた。
翔太は、呆然としているようで、そんな表情を見ていたら、私の方が苦しくなりそうで。
「それは、昨日。」
「えー、まじ？いつ入れんのよ籍は」
「来月かな。ほら、私5月誕生日だから」
「あーそっか。結婚式とかすんの？」
「…わかんないけど、彼の方は結構大々的に式挙げたがってる」
「Aはしたくないの？」
「うん、そんなに。目立つの好きじゃないし」
「ほぉーん。なんか、Aらしいね」
「そうかな」
翔太を置いてけぼりにするように、ふっかはどんどんと私に質問を寄越す。
気まずいんだろうな、気、使わせてごめんね。
と、心の中で呟きながら、私もただただ質問に答え続けたけれど、そんな浅い会話もすぐに流れてしまう。
痛いくらいに張り詰めた空気に耐えられなくなったのか、ふっかはゴトッと椅子を引いて立ち上がり、
「なんか、俺帰った方がいいかな」
と、後頭部をぽりぽりと掻きながら言う。
「一旦さ、2人で、話し合えよ」
よろりと立ち上ちすくむふっかの目が、怖いほど真っ直ぐで、真剣で。
「俺がいることで話しにくいこともあるだろーし…とりあえず、ゆっくり話しな」
と、優しくつぶやいた。
そして、
「じゃあ、また呑も〜」
と、私たちの返事も聞かぬまま、
ヒラヒラとその細くて綺麗な手を振って、居酒屋を足早に出てしまった。
ガタッと丁寧に占められた個室のドアを見つめて。
また、より一層張り詰めた空気が流れた。
「ごめん、ちょっと俺びっくりしててさ」
先に口を開いたのは翔太だった。
「そーだよね」
「ん…周りにもあんまいなくてさ、結婚してるやつ」
「そっか」
「うん、びっくり。本当に」
隣に座る翔太はチラリと私を横目に見て、はぁと小さく息を吐きながら、ぐったりと個室の壁に寄りかかった。
寄りかかった時によれたTシャツの隙間から、鎖骨や筋肉がチラリと覗いて、いつぶりかに、翔太に色気を感じた。
会った時よりもすこし柔らかなイメージになったその髪を触りながら、「Aさぁ」と、小さく低く呟いて、
「俺がまだ、好きだって言ったらどうする？」
と、付け加えるように言った。
翔太が髪の毛から手を下ろした時、
初めて会った時に嗅いだような、甘くて柔らかい匂いが香った。
あまりの懐かしさに、首根っこを掴まれて引き戻されるように、
10年前の記憶が蘇る。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1255人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
みるく?(プロフ) - minmin様 終わらせて、マイジャーニーすごく良かったです。お互いがひっそりと恋してるのにきゅんとしました。最後の終わり方にもドキドキしました！これからも楽しみにしてます。 (10月17日 21時) (
レス) @page32 id: d41930f707 (このIDを非表示/違反報告)
minmin(プロフ) - はみさん» はじめまして！コメントありがとうございます^_^ これからも楽しんでいただけるよう、頑張りますね！ (2022年3月18日 2時) (レス) id: 1eb423545c (このIDを非表示/違反報告)
はみ - 作者様、いつも作品見ています！はじめまして、はみです！作者様の作品は全て見てるのですが、推しの💙さんの作品ができて大歓喜です。文才がえぐい😭更新楽しみにしてます！ (2022年3月17日 20時) (レス) id: 846f01110c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：minmin
| 作成日時：2022年3月14日 3時
