蒼色涙 (ページ10)

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美術室に行くほど、人通りが少なくなるのは、おなじみのことで、
忘れ去られたように木の板に書かれた美術室、の文字。
ガラガラと重い扉を開けると、乾いた絵の具の匂いが漂ってきた。

「おいおい、遅いぞお前ら」

ポリポリと、頬を掻きながら眠たそうにこちらを見る、顧問の松本先生。

「ごめんごめん、カズが遅くてさぁ」
「潤くん怒ってんの？そんな事で怒ってるから彼女できないんじゃないの？」
「二宮？潤くんって何？松本先生だっつてんだろ」

あぁ、今日は機嫌が悪い。
寝てないのかしら。
とか、思ってたら先生がギロ、と睨んできた。

「宮野、そういやコンクールの作品、まだだったよな、早くしろよ」
「え、あ、うん。もうすぐなんだけどさ、先生ここ、見てよ、ここの色の使い方、わかんないから」

おう、とすっと立ち上がって私の方に来た。

「大野、二宮、絵の用意しといて、お前らできてるだろ？預かるから」
はいよー、とかけだるそうに準備室に入る二人。

「ごめんごめん、んで？どこ？」
「ここの色。もっとさ、深みを出したいのに出ないの。どうすればいい？」
「んー……そうだな」

ポケットからおなじみの絵の具を取り出して、パレットにのせる。

「もうちょい、立体感がほしいかな、ベタッとしすぎだから」

この色塗ってみ、と差し出された色は、桜の色とは程遠い色で。
ほんとに大丈夫か、と思いながら毎回アドバイスをもらった時は塗るのだけれど。
塗ってみると私には出せない色が、形が、浮き出てくる。

「うわぁ……すっご」
「だろ？」

二カッ、と笑う先生。
笑えば素敵なのに、笑わなくて、言葉遣いも荒いもんだから怖がられてること知らないのかしら。

「将来は先生に弟子入りしようかな」
「おぉ、鍛えてやるけど？」
「あ、それじゃ、俺も弟子入りしーよおっと、ね？潤くん？」

いつの間にか私と、先生の間に顔を出すカズ。

「だーかーらー！潤くんやめろって！」

先生がカズの頭をガシガシしてる。
同い年みたい。結局仲がいい。

「それじゃ、私進めるから、仲良くね、お二人さん」

さっきのキャンバスを持って、智の隣の席に座る。

「お、よくなってる」

智が私の絵を覗き込む。
……ふわっと香水の香りがした。女物の。
めまいがしそうになったのを、ぐっと堪える。