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智の規則的な寝息が聞こえて、現実に引き戻された。
…ほんとに寝てるよ。
普通こういうの、男が自転車こいで、女がその後ろに乗るもんじゃなかったか、と今更ながら気付いた。
はたから見れば、異様な光景。
まぁ、いっか、と坂道を勢いよく登る。
坂の上にある学校。
小柄とはいえ、さすがに男を後ろに乗せて、坂道は登れない。
途中でスピードを緩めて、道の端に自転車を止めた。
智を起こそうと後ろを振り返ると、思ったより至近距離に智の顔があって、どきん、と心臓が、はねた。
キレーな顔。
少し日焼けした肌。
第一ボタンを開けたシャツから見える鎖骨。
知らない、智。
そういえば、誰かが言ってた。
『大野くんってさ、意外と筋肉質だよね、体育の時とか見た？』
『あぁ！見た見た！か弱そうに見えて意外とさ、男っぽいよね』
『でも、たしか彼女いたよね』
『うっそー！結構気になってたのになぁ』
あのときはあんまり気にならなかったけど、こうして間近で見ると…。
その時、サァ、と強い風がふいて、智の目にかかっていた前髪がなびいた。
…………え？
ドバッと、全身から汗が吹き出した気がした。
ねぇ、もしかして…。
慌てて智を揺さぶる。
「ねぇ！智！起きて！もう漕げないから！重い！」
ぴく、と動く眉毛。
眩しかったのか、ぎゅっと瞑られる目。
まさか…まさかね。
「ねむ…なんだよ、最後まで乗せてってよ、ケチ」
「智乗せてなんて漕げないから」
「あ、そ」
のっそりと自転車から降りる智。
眠たそうな智の目。
猫背の背中。
うん、変わらない。
「んもー結構重たいんだからさー」
「おめーに言われたかねーよ」
桜の散った枝から溢れる太陽の光がやけに眩しい。
先の方からは賑やかな声が聞こえる。
「……あのさ、智」
「ん？」
智と、目が合った。
静かな時間。
言えない。
絶対に。
「背、伸びたね」
「そーお？」
嬉しそうにする智がどうしても好きで。
私は、絶対に言えない。
────さっき、起きてたよね？────
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作者名：さくまる | 作成日時：2018年8月13日 18時
