蒼色涙 (ページ14)

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鏡の前で、制服に着替えていると、ピンポーン、と陽気な音がした。
バタバタとお母さんが玄関へ駆け寄る音。
ガチャリと扉が開く音がして聞こえてきたのは聞きなれた声だった。

「あ、おはようございます」
「あら、智くん」
「Aいます？」
「Aー！智くん来てくれてるけどー？」

…え。なんでだろ、と、慌ててボタンをしめて、階段をおりる。

「おはよう、どうしたの？」
「え？迎えに来たんだけど？」
「珍しいね」
「いいじゃん」

ちら、とお母さんを見るとバチ、と目があってニヤニヤしてきたから、とりあえずお弁当と水筒をもって、行ってくるから、と家を出た。

「チャリで行くけど？」
「うん」
「智どうすんの？チャリは？」
「…え、乗せてってくれるんでしょ？」

昨日言ったじゃん、と可愛らしい笑顔で言われる。
この笑顔には弱い。

「もー、わかったわかった。乗って」
「んふふ、ありがと」

ばん、と、私のリュックと智のリュックを前のかごに入れていつものように座る。
いつもと違うのは。

「乗るよ？大丈夫？」
「どうぞ？乗り心地は保証しないけど？」

背中に感じる智の体温。
少し筋肉のついた腕が私の腰周りにくるりと回る。

「っちょ！どこ触ってんのよ！」
「おめー太ったんじゃねーの？」
「いやいやいや体重落ちたから！とかそういうことじゃなくてさ！」
「んもーうるせ。俺が手離してたらチャリから落ちるから、手は固定用」

俺ちょっと眠いから寝るわ、と智が言うと、トン、と肩辺りに振動がおこった。
ちらっと後ろを見ると、智の頭が私の肩に寄りかかってる。

マイペースなんだから。

よいしょ、と右足に力を込めると、暖かくなった風が頬にあたった。

タイヤが地面と擦れると、落ちた桜の花びらが少し浮いた。

あっという間だな、とつくづく思う。
ほんの2、3日前には溢れんばかりに咲いていた桜が、何かを失ったように静かに落ちていく。

昔の人たちは、儚さを好んだ。
すぐに消えていくものこそ、儚く、美しいと、胸を焦がした。
……まるで、恋のようだ、と。

桜を見て、自分の恋を恨んだに違いない。