蒼色涙 (ページ13)

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気をつけろよ、とカズが言って、うん、と私が言って、カズとはいつもの交差点で別れた。

家に帰るとお母さんがいつものように、ごはんは何がいいか聞いてくる。
なんでもいいけど、といつものように答えると、返ってくるのは、それが一番難しいんだけど、の言葉。
んじゃ、唐揚げ、と後ろからひょっこり顔を出すお兄ちゃん。
あんた、また唐揚げ？先週もでしょ？
食いたいんだからいーだろ、とかいつものやり取りが始まったのを見計らってリビングから出て、手を洗って自分の部屋に行く。

LINEを開くと、智からのメッセージ。

『絵、描き終わった？A、集中してるみたいだったから、そのまま出てきて先抜けたけど』
『うん、カズからきいた。まだあともうちょっと』
『明日は最後まで残るから』
『いいよ、気遣わなくて』
『俺もあいつとだけじゃなくて、Aとも帰りたいの』

なんだか可愛く怒った絵文字と一緒に送られてきて思わず笑う。
幸せの笑み。

カズとの最後のメッセージなんて、黙れくせ毛、で終わってるのに。
こういうところが好きなのよ。
不器用な優しさに、包まれているような。
くすぐったくなる。

『ありがと』

と送ると、また可愛いスタンプが送られてきた。

もし、このままLINEだけで繋がれてたら、優しい言葉だけを智にかけて、優しい言葉だけを智からかけられて、付き合えたのかな、なんて。
久しぶりに馬鹿なことを考えた。

ブブ、とバイブ音がなって、今度はカズからのメッセージ。
画面の上の方にチョロンと出てきた言葉は、今日も安定のくせ毛だったね、可愛かったよ、の文字。

気分が悪いこの男。

スマホの電源を落としてベットに寝転ぶ。

明日までにあの絵終わらせないと。
スケッチブックの下描きをペラペラとめくる。

風景の次にいつも出てくるのは、智の横顔で。
外に出て描くときは必ず描くと決めてる。

隣に座ると、いつも見えるのは横顔で。
ふ、と遠い先の未来をを見つめるような時の智の悲しげな顔を
何度も何度も見た。

忘れないように、と描き留めた。

唯一、忘れたくないものなの。
絶対、忘れたくないものなの。

けれど、いつかは忘れる。
そのことも、知っている。

私は一体、何を望んでいるのかが、わからない。

ただ、わかるのは。
智とずっと一緒にいたい。
たとえそれが、どんな形であれ。