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不意に誰かが私の髪の毛を触る感覚がして、絵を描いている手を止めた。
「ガシガシじゃん」
「くせ毛だからね」
髪の毛を触ってくる奴なんてこの世に一人しかいない。
さりげなく払おうと試みたけど、どうにも離れない。
まぁ、いいか。
筆に手を伸ばそうとしたのを遮るように、あんた馬鹿なの？時計見なさいよ、とカズの冷たい声。
時計を見て驚いた。もう六時前じゃない。
周りを見ると私とカズの二人しかいない。
「え、ごめん。全然気付かなかった。帰らなきゃ」
「だろーな。めっちゃ集中してたし」
「…ねぇ、智は？」
「覚えてないの？例の彼女と帰りましたよ」
鼻で笑われた。なんて嫌な笑い方。
むかつく。横目で睨んでとりあえず絵の具を片づける。
「綺麗な絵だね」
カズがまじまじと見つめながら呟いた。
その言葉にふと疑問が浮かぶ。
……なんで智は、気持ち悪いなんて言ったんだろう。
同じ絵なのに。
カズには見えてないの？
「ねぇ、他になにか感じない？気持ち悪いとか」
「気持ち悪い…？」
「智がさ、この絵を見て、気持ち悪い感じがするって」
んー、と首をかしげながらカズが唇を尖らせる。
「智、馬鹿なんじゃないの。そんなことないけどなぁ」
「でも、私も智の絵見た時ね、なんていうのかなぐぅ、と胸が締め付けられるようなさ、いわゆる気持ち悪い、みたいな感情がね、あったんだけどね…」
なんだろこれ、と呟いた言葉が乾いた空気に紛れた。
「ねぇ、もしかしてさ…」
「ん？」
振り向くと、カズが見たことのないような目を向けてきた。
「どうしたの？ねぇ」
見たことのないカズに思わず手を触れそうになった。
それをやめたのは。
何かを悟ったような、絶望の欠片を見たから。
「やっぱなんにもない。暗くなっちゃうから、早く帰ろ」
カズがにこりと普段どうりに笑った。
大丈夫。
大丈夫だから。
何もない。私の見間違いだったのよ。
さっきのカズの目は。
ねぇ、私達は何も変わらないのよね。
そうでしょ？
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作者名：さくまる | 作成日時：2018年8月13日 18時
