蒼色涙 (ページ11)

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じーっと私の絵を見続ける智が、我にかえったように身体を震わせた。
すん、と鼻をすすった音。
ゆっくりと智が振り返った。

「なんか……迷ってんの？」

すぅ、と智が目を細めた。
私の心を読み取るように、ジワジワと智が入ってくる感覚。
……気持ち悪い。
正直に、思ってしまった。
不快感に近い思い。なにこれ。
それを振り払うように笑顔で答える。

「あは、バレてる？最近、進路希望の紙配られたでしょ？もうそんな時期かー、どうしようかなー、って迷っててさ」

智の眉間にシワがよった。
なにか、いらないことを言った？

「んー、ホントにそれだけか……？なんか、こう、俺から見てだよ？怒んなよ？ちょっと、気持ち悪いっていうか、悲しくなるっていうかそんな気持ちが出てくるんだよなぁ…でも違うんだよね、パッと見はそうなんだけどね、ずっと見てるとさ、なんていうの………なんだろこれ……、なんの感情だろ………」

智の言葉が途切れた。

あぁ、感情は全て絵に現れるんだと呆れ笑いをこぼす。

ばかだなぁ、と笑いたくなった。
貴方が知るわけもないし、知られたくもない思いなんだから。
何度も、心の中で叫び続けた。
まだ、言うには早すぎて、言ってしまうと、全てが壊れる言葉なんだから。

何も悟られないように、すっと絵に目を移す。

「深読みしすぎじゃない？私の絵は、智の絵みたいに見るだけで感情が伝わってくるような、そんなよくできたものでもないし」

そんなはずないのになぁ、と智が呟いた。
合点がいかないようだけど、これ以上この絵を見せると、何が気付かれるような気がして、恐ろしくなった。

まだ、智には気づかれちゃいけない。

「智のも、見せてよ」
「ん？あぁ、まだ見てなかったっけ、ほら」

智が指差した絵が、一瞬真っ黒に見えた。
本当は、美しい桜なのに。
それと同時にお腹の底から湧き上がる不快感。
何かに囚われたような、恐怖。

……なによ、この絵。

ほんの2、3秒のことなのに、まるで遠い未来のように。
呼吸が止まった気がした。

全身に悪寒が走る。

「どう？A？」

智の声にどうしてか、泣きたくなった。

「さすがだね…智。なんか、今までに感じたことない感情が、どわっと…」
「でしょ？」

ねぇ智。
この絵に智の感情が入ってるとしたら…。
あなたは、何を考えてるの。

智が笑った気がした。