蒼色涙 (ページ1)

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ふわり、と優しい風が吹いた。

さらり、と髪の毛がなびいた。

「くすぐって……」
「あぁ、あたった？ごめんごめん」
この空気も、この匂いも、いつかきっと忘れると知っている。
だからこそ、今を大事にしたいと思うんでしょう？
忘れてしまった記憶なんて、思い出せない。

智が、ふわりと笑った。
「おめー髪の毛ガッシガシだな」
「リンスー毎日してるのになぁー！」
「それで！？」
「うるさいなぁ」

桜の花びらがまるで一枚の絵のように舞った。

「綺麗だね……」
「…」

そう、あなたはいつも、美しい景色を美しいとは言わない。
何かに取り憑かれたようにじっと。
誰かを想うようにそっと。
ものも言わずただ一点を見つめる。

その景色はやがて、智によって永遠の命が吹き込まれる。

細かな動きが伝わる。
空気も、匂いも、忘れることはないと、私に教えるように。

彼の絵は、特別だ。
彼の絵は、生きている。

か細い息を繰り返し、やがて大きな花を咲かす。

ぽとり、と私の絵の上に桜が落ちた。

「ん……」
そっと、智の手が私の絵に触れた。
「花びら」
宝物を見つけた少年のように。

いつも、あなたの笑顔にはかなわない。