短編集【wrwrd】 (ページ8)

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量より質 zm ページ8

ゾムはよく食べる。それはもう、よく。成人男性はみんなそれなりに食べるものだとは思うけど、そんなの比にならないくらい食べる。

更にそれと同じくらい寂しがりで、寂しさと食欲を満たすために編み出した彼なりのコミュニケーション方法を「食害」と友人たちは呼んでいる。

目の前で友人たちがその被害にあっているのを見たことがあるが、初めて見た時は結構ドン引きしてしまった。苦しそうに顔を真っ青にしている姿は非常に哀れなものだった。

そんなかまってちゃん＆大食いの彼とお付き合いしていても、私自身が食害の被害にあったことはない。

少食の人にも容赦なくそのコミュニケーション方法を発揮する彼は、私にだけ優しい。私が女だから遠慮しているのか、彼女だから大切にしてくれているのか。別に彼が友達を大切にしていないわけではないと思うけど。

それはともかく。
つまりそれくらい食べることが大好きなゾムだけど、今日は私と焼肉に来ている。

私が「焼肉食べたいなあ」とこぼしたからである。

焼肉なんて何年ぶりだろうか。少食な私は、いつも焼肉やバイキングに来ても元を取るほど食べることができない。何だかもったいなくて来ること自体なかなかないのだ。それでもお肉は食べたい。ちょっとだけしか食べられなくても。

自宅での焼肉なら好きな量だけ食べられるけど、やっぱり雰囲気は大事。家のホットプレートより本格的な七輪の方が美味しい気がする。

「A、なに食べる？」

「うーん、とりあえずご飯と、タンとカルビと…」

いっぱい食べるゾムが一緒だと、安心して食べたいものを注文できる。色んな種類を頼むと1人じゃ食べきれないから、わけっこできるのが2人の良いところ。

「あ……ご飯やめてクッパにしようかな」

焼肉屋さんのクッパって美味しいよね。ここでしか食べられないと思うとつい食べたくなった。だけど焼肉とご飯の相性が最強だということも私は知っている。

迷う。これは。

「ねえ、ゾム……」

「クッパ手伝えって言うんやろ」

笑って思考を読み取られた。彼にはお見通し。

「ええよ、そのつもりやったし」

ご飯は小にしとこうな、と言ってゾムが店員さんを呼ぶ。全く頼りになる彼氏だ。