短編集【wrwrd】 (ページ7)

今日:35 hit、昨日:33 hit、合計:13,415 hit

・ページ7

兄はリビングでスマホをいじっていた。「おかえり」と画面から目を離すことなく迎えられる。

がさがさと荷物を置いて、もう一度深呼吸。勇気を出して。

「お兄ちゃん」

「なんや」

ようやく私を見たお兄ちゃんは、私が大切に抱えるラッピングを見て少し驚いた顔をした。

「誕生日おめでとう。……その、いつもありがとう」

兄はぱちぱちと瞬きをして、差し出されたプレゼントと私の顔を数度見比べた。なんだか気恥ずかしくて私は目をそらす。兄はおもむろに立ち上がり、私と目線を合わせるように屈んでくれる。

「覚えとってくれたんや」

恐る恐る顔を見やると、こんなに嬉しいことはないってほど幸せそうな顔をしていた。今までの元カノさんたちに笑いかけていたようなものでも、私をからかう時のものでもなくて、昔から変わらないただの「お兄ちゃん」の笑顔だった。

「ありがと、A。開けてもええ？」

「……お兄ちゃん」

「ん？」

朗らかな笑顔と、優しく次の言葉を急かす返事。ちゃんと聞いとるよ、って聞こえてきそうなほど優しい声。こういうところは、いつまでも変わらない私だけの「お兄ちゃん」なのだ。たまらなくなって、私は小さく呟く。

「……だいすき」

そして全力で逃げた。リビングを抜けて階段を駆け上がる途中、兄の慌てたような、それでいて嬉しそうな声が聞こえた。

「……俺も！」