短編集【wrwrd】 (ページ6)

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店員さんに相談に乗ってもらって、親切な笑顔に見送られながら今度はネクタイの専門店へ。

お兄ちゃんが成人した時に、お祝いでネクタイを贈ったのだ。もう数年経つから2本目があったって良いだろうと判断した結果である。仕事にスーツを着ていく時、お兄ちゃんはいつもあのネクタイを着けてくれる。「気に入ってんねん」と笑顔で頭を撫でられた時は、正直めちゃくちゃ嬉しくて顔に出さないようにするのが精一杯だった。

品の良い中年のオーナーは「いらっしゃいませ」と落ち着いた声で迎えたっきり余計な声をかけてこない。カウンターで何か作業をしている。服屋さんや美容院で店員さんに声をかけられるのが苦手な私は正直大変助かった。

じっくり悩み通して、今度は自分のセンスでこれだと思う1本を選んだ。黄色だけど派手すぎない、刺繍の入った上品な1本。少し値は張るけど、お兄ちゃんだっていつも私の誕生日には高い買い物をして来てくれるのだから。ここがお金の使いどころというやつだ。

綺麗にラッピングしてもらって、かけられたリボンを崩さないよう慎重に持ち帰った。

玄関扉を開けると、お兄ちゃんの靴があった。いつも通り適当に脱ぎ捨てられている。悪いことをしているわけじゃないのに何だかどきりとして、一度深呼吸。

「ただいま」

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