短編集【wrwrd】 (ページ35)

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「オスマン様」

「まあまあ、落ち着きや。体調が優れんのなら今日は帰らせてもらおか。粗相があってはいかんしな」

「戦うな」ということらしい。それもそうだ、ここは敵の拠点である。セーフティは外したまま、ホルスターから手を離す。

「本日はこれで失礼致します。また書状をお送りします」

相手はため息をつき、機嫌を損ねたように睨みを利かせてきた。ターゲットはオスマン様だったんだろう。先に私が食べて気づいたものだからイラついているみたいだ。

それを無視して私たちは早足に部屋を出て、宮殿の使用人たちに頭を下げられながら馬車に向かう。

いつ襲撃されても平気なように身構えつつ、長い廊下を来た時より急いで歩いた。慌ただしさに勘づかれないよう冷静に、いつも通りですよという顔をして。

城門を出てすぐ待っていた御者に急ぐよう指示をし、馬車の戸を開けてオスマン様を先に乗せる。私と彼の二人が乗り込んでから、ようやく銃のセーフティをかけた。

それと同時に座る間もなく馬車が走り始めた。砂利道を揺れるので慌てて座ると、オスマン様が自分の水筒を差し出してくれる。

「飲み込んどらんよな」

「平気です。持ち帰ってきましたから後ほど衛生局に解析していただきます」

ありがたく受けとった中身を遠慮なく空にすると、向かいに座っていたオスマン様は私の隣に座り直す。脚を組んで、少し苛立っているようだ。

「大丈夫ですよ。味は明らかに毒でしたけど体調は何ともないです」

「遅効性かもしれん。毒殺するなら少量でも致死量になる毒やろうし、急がんと」

いつも穏やかに微笑む顔は、今は見る影をなくしている。美人の怒った顔は怖い。

「うちの秘書に手を出したんや。開戦待ったなしや」

うーん、これは。かなり怒ってるみたい。総統閣下が私一人のために宣戦布告するとは思えないけど、オスマン様のケーキにもきっと毒は入っていただろうし。多分あの方は戦争する口実を手に入れられて大興奮だろう。

ならば私がこれ以上何を言おうと変わらない。

「肩もたれてええよ。ついたらペ神とこ行こうな」

優しいオスマン様の指が私の髪を梳き、そっと肩にもたれさせる。恐れ多いが猛烈に眠たくなってきたので抵抗する気も起きなかった。

そっと目を閉じると、馬車の揺れと彼の体温で私の意識はみるみる闇に落ちていった。