短編集【wrwrd】 (ページ34)

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一言一言が命取りだ。攻めすぎても守りすぎもいけない。ともすれば戦場より絶妙で繊細なバランスでお互いの口撃が繰り返される。

私はもうその内容を理解することを諦めて、自分の職務に集中しようとフォークを手に取った。

目の前のショートケーキは至って普通。給仕がこの国の宮殿御用達だと紹介していただけあって、とても美味しそうだ。シロップのかけられたいちごはつやつやと光り、美しい断面のスポンジは空気を含んでふっくらとしている。

フォークを刺すとクリームがぐしゃりと潰れ、ほろりと崩れるスポンジがこぼれ落ちた。

作りもののように美しいケーキを口に含み、咀嚼する。

めちゃくちゃおいしい。なんだこれは。

生クリームがくどすぎず優しい甘みでいちごの酸味を引き立て、スポンジのほのかな卵の甘みが優しい。うちの総統閣下御用達の洋菓子店のものと引けを取らないのではないだろうか。

ゆっくり味わって咀嚼し、私は今度はつやつやのいちごにフォークを突き立てた。シロップが照明に反射して宝石のように輝いている。小さないちごは大きな口を開けずとも一口で食べることができた。

そして、噛み潰した瞬間。
舌の根に広がる苦味と機械的な酸味。

私は冷静なふりをしてフォークを置き、隣の彼の袖をそっと引いた。

懐から懐紙を出して顔を背け、潰れたいちごを吐き出す。丁寧に包んで仕舞い、腰に下げた飲料水を一気飲みした。

「秘書殿。お口に合いませんでしたかな？」

「いいえ。これはどこのパティシエのケーキでしょうか。こんなに素晴らしいケーキをこのように使われては、勿体ない」

相手が表情を変えず立ち上がる。私はそれより早くホルスターに手を伸ばし、銃のセーフティを解除した。

まだ相手の動き方が分からない以上、この場で銃口を向けるのは得策ではない。いつでも撃てるよう手をかけて、上司の指示を仰ぐ。