短編集【wrwrd】 (ページ33)

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そんなわけで、外交に向かう際の秘書としての私の仕事はこうである。

外交の際に出された茶や菓子を毒味する。角が立たぬようそれとなくオスマン様より先に手をつけ、ボディーガードとして万一の襲撃にも備える。懐にナイフ、太ももにハンドガン。

もちろんこちらが武装していることは相手も予測済みなので、万が一没収されたとき用に靴に小さなナイフが仕込んであったりもする。用意周到な総統閣下が特注で用意してくださった物だ。

外交官の補佐というが、やっていることは文官より武官に近い。こんなに武装した文官がいるものか。事務もできなくはないが、別に私は文弱ではない。

閑話休題。
此度の外交先の国は、諜報員による情報で我が国を属国にしようと企んでいると発覚している。今回の外交の目的はその牽制、および内情視察。総統閣下の予測では、この国と開戦するのも近く年内であるらしい。

豪華絢爛な宮殿の一室。大理石のテーブルに革張りの大きなソファ。向かい合うように腰掛ける我が国の外交官と相手国の参謀長官。その脳内でどんなチェスが行われているかなど、想像もつかない。

2人の近況報告を聞き流しつつ、いつも通り出された紅茶に口をつけ平気そうだとオスマン様に合図をする。彼は体裁のために口をつけたが、喉は上下しない。パフォーマンスである。

その様子をじっと見ていた相手方が、組んだ手を膝に乗せて前のめりになる。

「たった1代であれほど栄えた国家を建設し、破竹の勢いで近隣の国々を傘下に入れる貴公の総統閣下殿の手腕には目を見張るものがありますなあ。どこかで政治の経験でも？」

「いえ、そのような話は聞いておりませんね。常に未来を見据えている聡明なお方でありますから、過去を語ることはないのです」