短編集【wrwrd】 (ページ32)

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甘美な毒 os ページ32

⚠️軍パロ

我が国の外交官の秘書。
それが私に当てられた職務であった。建国初期からこの国の軍に所属していた者の中で抜き打ちで毒物耐性のテストが行われ、いちばん強い者を…という流れだった。

突然軍部の食堂でばたばたと人が倒れ、吐瀉物が撒き散らされ、屈強な男たちが手脚をビクビクと痙攣させる地獄絵図は未だ覚えている。総統閣下からのお達しなので流石に殺意はなかっただろうけど。

私はというと、なんかいつもとスープの味が違うなあというくらいで別になんてこともなく食べていた。

軍医総括のしんぺい神様は致死量のごく5分の1の毒を盛るよう厨房に指示していたようだが、1週間ほどは様々な種類の毒を食らった者たちの看病に忙しくしていた。しかし死亡する者はおろか後遺症が残る者もいなかった。そこは彼の医の実力である。

総統閣下がそんな地獄絵図を描こうと決めたきっかけは、この国の急成長に際してオスマン様の毒殺が企てられたことであったらしい。

外交先で紅茶に毒を盛られたのである。幸いにも一口飲んで気づいた彼は早々にその場を切り上げ帰国したのだが、馬車が国境を越えた瞬間に失神し3日昏睡した。

もちろん護衛はいた。しかし「護衛」という名目である以上、相手国への信用を示すために会食に立ち会うことは許されていなかった。密室では殺し放題というわけだ。

しかしそこは我らが外交官も軍人である。その辺の軍人の一撃くらいはかわせるし、外に助けを呼ぶ隙を作ることくらいはできる。

つまりそんな彼を暗殺する方法は毒殺しかなかったのだ。そういうわけで「護衛」ではなく「秘書」として、か弱い文官のような見た目の私が同行することとなった。

恐らく私が毒に強かったのは、スラム出身だったからだ。軍に入るまでは富裕層の使用人たちが捨てていく残飯を漁って生きていた。夏場は腐った果物や生魚を漁り、どうしても食料がない時は付近の森の謎の草や実をかじってしのいでいた。

暗殺に使われる毒などほぼ全て植物由来だ。幼い頃からその辺の雑草や木の皮をかじっていた私は自然に体が慣れていたのだろう。幸か不幸か。