短編集【wrwrd】 (ページ31)

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彼は私を膝上に抱えたまま、さっきより短くなった煙草を吸う。

その吐く煙が全部私の顔にかかって、睨んでもむしろその反応が嬉しいように愉快に笑う。このクズ。女の敵が。

そんな彼をいつも許してしまうのは、どうしようもなく私が彼を好きだから。惚れた弱みというやつだ。

「Aちゃんのそういうとこ俺好きやで」

あークズ。

毎回そう思っても別れようとか嫌いになるとか、そんなこと1ミリも考えないから私もちょろいしバカな女なのだ。

「いっそAちゃんも吸うたら？」

「嫌」

そんなことしたら、もしあなたに捨てられても忘れられなくなるでしょ。匂いって1番記憶に残るんだから。

最低限の逃げ道は残しておきたい。

「ええやん。どうせこんなもん吸っとったら僕も長生きせんし」

「一緒に死のうって？」

「女の子ってそういうの好きやんな。心中的なやつ」

ともすればこれはプロポーズだったりするのだろうか。いやまさか。

「本当に私と死んでくれるならいいんだけどね」

「冷たっ。俺Aちゃんには結構誠実やで？」

嘘。絶対嘘。他の女にも言ってる。

吸いきった煙草を灰皿に押し付けて、彼はまた1本取り出す。まだ吸うのか。

「な、1回だけ」

それに100円のライターで火をつけて、私の口に差し込んできた。まだ返事してないんだけど。

促されてほんの少しだけ、小さく息を吸ってみた。バニラの甘味と後に残る薄い苦み。

あれ、意外と。

「いけるやろ」

自分で差し込んだそれを奪って、彼はどこか自慢げに笑った。

全くずるいひと。