短編集【wrwrd】 (ページ30)

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緩やかな自殺 ut ページ30

⚠️utがクズ not死ネタ

煙草ってそんなにおいしいものなんだろうか。

暇さえあれば煙草を出して、暇がなくても口さえ空いていれば煙草を出す。起きる、煙草。ご飯、煙草。寝る前、煙草。

彼にとって喫煙は三大欲求ならぬ四大欲求のひとつ。「喫煙」が生活に食い込みすぎているこの男は今日も窓を全開にして、ゲームをしながらぷかぷか煙草を吸っている。

彼のタイプからして「体に悪いからやめて」とか言う女は嫌いだろうからあえて触れずにいるけど、私は煙草の煙がどうにも苦手だ。

気持ち悪くなって、頭がくらくらして、何だか喉がイガイガする。体調が優れない日に吸われようものならどんな状況でも自室に引っ込むくらい、私と煙草の相性は最悪である。

それを鬱に言ったことはないけどなんか日に日に本数増えてる気がするし、ただでさえ体調の悪い生理中に吸われたらたまったものではないし。

「……鬱、あのさ」

「おん？」

ゲームをやめて今度はTwitterを触っていた彼がくわえ煙草で返事する。視線は画面に固定されたまま。

「煙草、変える気ない？」

何やら文章を入力していた手を止めて、ソファに座る鬱がこちらを見上げる。くわえたそれを一旦灰皿に置いた。

「なんで？」

「なんか、匂いが苦手。吸うなって言う気はないからせめて変えない？」

「窓開けとるやん」

「そういうことじゃなくて…」

言いかけた言葉を遮って、彼が私の腕を引いて膝に乗せる。いつもより匂いが強い。やっぱり窓を開けていても彼自身に染みついた匂いは変わらない。

乾いた唇が降ってきて、言葉を続けようとする私の口を塞ぐ。窓から吹き込んだ風が彼の黒髪をなびかせて、煙草の匂いを拡散する。

何度も何度もついばんで、3回目くらいからいつもどおり舌が侵入してくる。いつもより苦いしなんか煙たい。彼の吐息まで煙になったみたいで不快だ。

いつまでもキスに慣れない私は、煙草の匂いだけでなく酸欠も相まって脱力してしまう。脳が動かない。麻痺してるみたいに手足も上手く動かせない。

「俺の匂いやって覚えさせればええんやろ？」

ぐったりした私を抱きしめて、耳元で鬱がそんなことを囁いた。

なんかちがう。そういうことじゃなくてさ。

言い返す気力を奪われた私がまだ反論できるはずもなく。何だか丸め込まれた気がするけど、まあこの話はまた今度でいいか。