短編集【wrwrd】 (ページ27)

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悠長な支度、早鐘の心臓 os ページ27

「ねえオスマン、これとこれどっちがいいと思う？」

「うん？」

振り向いたオスマンの手にはネクタイが2本。彼も迷っているらしい。

なんてったって今日は私たち二人共通の友人の結婚式。これが会社の人なら適当に選んだワンピースで行くんだけど、いかんせん付き合いの長い大事な友人。

私は手持ちのワンピース2着で10分ほど悩み、このままでは何時間も決められなさそうだったので彼に聞くことにしたのだ。

「Aちゃんはどっちがええの？」

「私は断然こっちの緑。でも結婚式で無難なのはこの紺色じゃない？」

「緑でええと思うよ。白と黒以外ならマナー違反ってことないで」

お色直しのドレスとも被らんし。

そう言って彼は私にネクタイを差し出す。

「どっちが好き？」

「……ネクタイピンつけるならこっちの白」

「じゃあそうしよ」

迷うことなく私の言葉通り、彼はもう一方の銀糸の入ったネクタイを仕舞い、ネクタイピンを取りだした。

「つけて」

私は2着のドレスを一旦ハンガーに掛け、彼の手からピンとネクタイを受け取る。

じいっとこちらを見るオスマンは、全く屈んでくれる気配がない。仕方なく私が背伸びをして首に手を伸ばすと、唇が降ってきた。

「ワンピースの後ろ、チャック閉めたるから」

わざとらしいリップ音の後、私の耳元で彼はぼそりと呟いた。いつもより低く脳を侵すような声で。

顔に熱が集まる感覚がして、私はうつむく。彼が着ているのはいつものビジネススーツより格式の高いブラックスーツ。それだけで何だか落ち着かないのに、こんなことをされたらもう堪らない。

「リップ落ちちゃう」

「塗り直したるよ」

いたずらな笑顔を見せる彼がようやくドレッサーの椅子に腰掛ける。届くようにはなったけど、未だ熱い顔が恥ずかしかった。

「早く」

柔らかい言葉で急かすオスマンはとても楽しそうだ。仕方なくその首にネクタイをかけて、丁寧に結んであげた。長さを調節して結び目を整えるのも、もう慣れたこと。

彼は私にネクタイをつけてもらうのが好きみたいで、毎朝律儀に頼んでくるのだ。それが嬉しい私は「仕方ないなあ」という顔をしつつも断らない。多分こんな気持ちはとっくにバレてる。

「ありがとう。はやく着替えといで」

彼はぽんぽんと私の頭を撫でてリビングに去っていった。嬉しそうにネクタイピンを撫でながら。