短編集【wrwrd】 (ページ25)

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この前まであんな寒かったのに。暖かくなるにつれてAがくっついて来んくなるから春は嫌や。夏はもっと嫌。抱きしめようとしても汗を気にしてAが逃げるから。

でも花見は行きたいな。二人で弁当作って桜並木が有名な公園に行きたい。レジャーシート持ってってもええし、ベンチでもええし。でもAは花粉症やから外でマスクは外したないかもしれん。やったら俺が車出して車内で食えばええ。うん、その方がいい。人目を気にせずいちゃつけるし。

なんて。

気分転換のために出てきたのに、結局アイツのことばっかやん。アイツは今頃仕事のことしか考えとらんのやろうな。俺ばっか好きみたい。

コンビニについてもAのことは頭から離れんかった。

無意識にAがいつも買っとる飲み物に手を伸ばしたり、アイツが好きそうな新作スイーツをカゴに入れとったり。アイツのことが全然頭から離れんくて、むしゃくしゃした。

朝から仕事しとるし糖分いるかな、とか。この前食いたがってたアイス買ってこ、とか。

いつもレジにおる店員は多分大学生。めっちゃピアス空いとって多分両耳合わせたら10個超えとる。これで意外と愛想が良い。

「ピザまん1個ください」

1ヶ月くらい前の寒い日に、夜中にここ来て二人で分けっこしたな。ほかほか湯気が立つピザまんを頬張って幸せそうにしとるのが可愛かった。マフラーとコートでもこもこになっとったのをよく覚えとる。

あの時は深夜何時やったかな。2時とかか。夜中のコンビニってなんか楽しいよな。ついつい買いすぎて冷蔵庫がスイーツだらけになって。酒飲みながらつまみの話になって、きのこたけのこ論争して。

記憶の中の俺は緑色のエコバッグを持っとったけど、今日はない。いつも持ってきとるのは彼女だから。

ビニール袋をがさがさ鳴らしながら帰路に着く。

さみし。

俺やっぱ、なんかしたかな。でも朝起きた時は普通やった。「おはよ」ってコーヒーいれてくれとって、俺も「おはよ」って返して抱きしめて。

嬉しそうに笑っとったんやけど。

帰りのエレベーターで2回目のため息。「幸せが逃げる」とかいうけど、アイツがかまってくれへん時点で幸せなんて1ミリもない。