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話し始めると止まらなくて、次第に堪えていた涙がぽろぽろこぼれ始める。シッマがテーブルのティッシュを差し出してくれたので受け取って、小さく鼻をすする。
「…ということがあって」
「そう。分かった。話してくれてありがとう」
部長はいつもの2倍増し優しい声でそう言って、「ゆっくり休んで」と一言。「失礼します」と電話を切る。緊張が解けて、ぴんと伸ばした背筋の力が抜けた。
「しっ、ま」
「おう、よう言ったな」
真剣な真顔から一変、いつものように彼は優しく破顔した。ティッシュを箱ごと私に寄せて、ソファの隣に座ってくれる。
「よう言った、流石やA」
私の髪をぐしゃぐしゃにして彼は笑う。しゃくりあげる私の背中を撫でて、労うように目の前のコップにお茶を注いでくれた。
「一旦な、第一歩は踏み出せたから！もうここからは簡単よ」
彼が言うとそれが本当に大したことないと思えるのだから不思議だ。ついさっきまで「あとで課長に何か言われたら」と泣き出しそうなほど怖かったのに、今はこれっぽっちも怖くない。「何とかなるか」という気さえする。
「ありがとう、シッマ」
「ええんやええんや！お前が生きる場所やねん、お前が決めるべきや」
「ん」
「あんな奴の言うこと聞く意味あるか？所詮お前の人生に必要ない他人のおっさんやねん」
豪快に課長を貶し、シッマはまた私の頭をぐしゃぐしゃ撫でた。優しいけどちょっと雑なこの手が好きだ。
「もしお前が直接言われんくても俺がおるやんか」
「ふふ、代わりに言ってくれたの？」
「当たり前やろ」
涙と鼻水をぬぐったせいで、目元と鼻が痛い。きっと赤くなってて全然可愛くないんだろうけど、なんだか振り切れちゃって私も笑顔になった。
「私、頑張ったよね」
「おう、ようやった」
褒められたのが嬉しくて抱きつくと、彼の胸にうずめた顔を上げさせられた。その目はなんだか楽しそうだ。
乾いた唇が押し付けられる。濃いタバコの匂いが香る。彼にしては珍しい、優しいキスだった。
「したかったんやろ」
「バレてた？」
「お前分かりやすいねん。はよ風呂入ってこい」
今日は何でも付き合ったるわ、と彼はタバコに火をつけて寝室に消えた。
今日はめいっぱい甘やかしてもらおう。
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作者名：笹弥(ささみ) | 作成日時：2024年2月13日 13時
