短編集【wrwrd】 (ページ20)

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「俺から言っといてアレやけど、警戒心ないん？」

ため息をついたお兄さんはメガネをくい、とかけ直して立ち上がる。

「ご迷惑だったら、駅までで……」

私の遠慮を黙殺し、お兄さんはこちらに手を差し伸べた。

「腹減らん？コンビニ寄って帰ろ」

くう、と小さくお腹の音が響いた。私は恥ずかしくてうつむく。

「はい……」

お兄さんは笑って「チーノ」と名乗った。私もそれに名乗り返して、警官がいないか周りを警戒しながら2人でコンビニに歩いた。

私はおにぎりとお茶を選んで、チーノさんはお弁当とお酒。お会計に行こうとしたら選んだものを手から奪われてしまった。

「家出少女に払わせられへんやろ」

そう笑った彼の真意は分からない。別にタイプでもない家出少女1人泊めたところで、何の利益があるのか全く理解できなかった。

もしかしたら、私が思うよりこの人は良い人なのかもしれない。

「ありがとうございます」

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そうして一晩泊めてもらって。
家についてからも「シャワー使ってええよ」とか「来客用の布団出しといたで」とか、いちいち優しいチーノさんにほだされて、私は簡単にこの人に懐いてしまったのであった。

1週間後、貞操どころか命まで危うい裏社会に呑まれることになろうとは露知らず。
そしてついには。

「あの、何かできることがあれば言ってください。泊まらせていただくのに何もしないのはちょっと」

相手がまさかマフィアの幹部だとも知らず、私は墓穴を掘ってしまうのだった。

「Aのこと、俺が知らんで声掛けたと思ったん？ほんまに警戒心ないねんな」

そして後ほど笑われることになる。