短編集【wrwrd】 (ページ18)

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上着無しで出てきてしまって割と寒いし、野宿は避けたい。仕方なく駅前につま先を向けて歩き出そうとした時、肩にぽんと衝撃を感じた。

「1人？」

見ると、すらりと背が高く分厚いメガネをかけた男の人。警官の制服など着ていない。
つまりこれは警察ではなく変態の方。

首の後ろを冷や汗が流れた。男はにこりと笑う。レンズの奥の目は優しそうなのにどこか怖いのは何故だろう。

「あ、いえ、ともだち、が」

「嘘つかんでええよ、さっきから見とったし」

ヤバい。間違いなく変態だ。このままホテルに連れ込まれて何やかんやされるパターンだこれは。

「警戒せんでよ。家出？」

気がつけば背後には壁。知らぬ間に追い詰められていたらしい。

「あ、の。わたし…病気持ちです」

咄嗟についた嘘に男は目を丸くした。変態ならこれでどこかに行ってくれ。

「あっはは！何もせんて。珍しい感じの子がおるなーって思っただけやで」

「それに俺、若すぎる子はちょっと」

私の胸元を指さして意地悪く笑う顔は、そっちの方が素のようだった。面白がられている気がする。

「お金ある？泊めてあげてもええよ」

「い、や…結構です…」

「心配やねん。あと1時間もしたらこの辺怖い人たち集まってくるで」

どうやら本気で私を怖がらせる気はないらしい。うつむく私の顔をしゃがんで覗き込む男は、私の返事を待っている。

「あの、私」

「すみません」

私が返事をしようとした時、横から別の男の人の声が聞こえた。

「お知り合いですか」

見ると今度は本物の警官。怪訝な顔をして私とメガネのお兄さんを見ている。

私は咄嗟にお兄さんの手を掴んだ。

「あ、兄です！」

「そうなの？一応身分証…」

「大丈夫です！」

身分証を求められたら大変困るので逃げた。もしここで母に連絡されたら終わる。待ちなさい、と叫ぶ声が聞こえたが無視した。道など分からないのでひたすら警官を撒けるルートを考えながら走った。お兄さんの手を掴んだまま。