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念には念を、と身ぐるみを剥いで白い簡素な服に着替えさせ、椅子に縛り付けられた彼女は俺を無感動に見つめていた。
「体の不調は？うちの麻酔銃はよく効いただろう」
「おかげさまで。耐性はあるつもりだったんだけど」
端麗な顔には似合わぬ意外にも低い声で女は答えた。口調さえ軽いが相変わらず表情は変わらない。
「ここに連れてきた理由は分かるな」
「情報を吐けって言うんでしょ。雇われてるだけだから大したことは知らないよ」
聞くと、彼女は世界各国を飛び回る殺し屋だと自己を紹介した。殺し以外にもスパイや情報屋、傭兵紛いのこともすると言う。全ては金次第だとも。
「痛いのは嫌いだから聞かれたことは全部答えるつもり」
情報の為なら我々はグロテスクな真似も辞さないが、手練相手の尋問は当然時間と労力がかかる。手強そうだと思っていただけに俺は拍子抜けした。同時に安心。
「それは僥倖。お前のことはなるべく傷つけたくないんだ」
「こんなにきつく縛っておいてよく言うよ。ねえ、少し緩めてくれない？指先の感覚がもうないの」
そこで初めて彼女は笑った。自嘲気味にくすりと。俺の背筋に冷たいものが這った。美人の笑顔は特に意味がなくとも恐ろしい。
「すぐ終わる。話をしよう。そうしたら考えてやる」
「早くしてね」
脱力した女は天を仰いだ。首が痛いらしい。白い喉を晒している。
「では聞くが、お前があの戦場にいた理由は？」
「さっき言った。依頼されたから」
ものすごく大儀そうである。「面倒くさい」を全身で表現している。感覚がないという指は血が止まっていて真っ白だ。
「依頼人と内容は？」
「あの国の宰相。この戦であなたの国の人間を殺せって。もしあなたが戦場に現れれば首を取れとも」
「失敗したわけだな」
「そう。金に目が眩んでね。情報収集はしたつもりだけど、まさか私にあれだけの人員を割くなんて。あれ、全部幹部でしょう？」
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作者名：笹弥(ささみ) | 作成日時：2024年2月13日 13時
