その手を取って

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朝のアクシデントで撮影は休憩があまり取れないまま進んではいたが、疲れも感じず寧ろ楽しくて撮影がこのまま終わらなければいいなって思いが過ぎる

監督の計らいで、下向きや左側中心の撮影が殆どで、右側には花婿を立たせたりして、傷をなるべく写さないようにしてくれた




「次は巨大ポスター用の撮影いくよ！藤ヶ谷くん、北山くんの後ろから抱きしめて 北山くんは仰ぎみるように振り返ってくれる？」

監督の指示で彼が後ろに立ち、脇から腕を差し入れてきて、俺の臍辺りで手を組む
俺は少し身体を左に傾け、右上に顔を向け仰ぎ見る

改めて見ると同性から見てもカッコイイ顔立ち
目線が絡むとふっと笑って、腰に回した腕の力が強くなった
俺も彼に体重をかけ、微笑みを返す

「おっいいね！もう少し北山くん顎を上げて 藤ヶ谷くんも顔を少し近づけて」
監督の指示で彼の顔が近づいてくる
目線も逸らさず優しい眼差しを受け、少し頬が赤くなるのが自分でもわかるくらいに熱くなった

″この眼差しを受けたら女の子は堕ちちゃうな 俺でも勘違いするくらいだし″


「宏光...今は...今だけでいいから俺のこと好きになって」
「.....」
「すげー好き...大好きだ」

さっきまで他愛ない話をしていたのが嘘のような会話
勿論撮影が成功するようにとの彼なりの考えなんだろうけど 悪い気が起こらない
今は...今だけは彼の花嫁...

「僕も好きだよ...太輔」

本物のカップルみたいに、互いに囁いて微笑みを交わした





スチールからムービーに入っても俺達の雰囲気はいい感じなのか、スタッフからこんな花婿(花嫁)になりたいと言われるほど
かなりタイトなスケジュールと慣れない衣装で、流石にここまでくると疲労感も出てきた

しかし今日一番の山場といってもいい重要なシーンにこれから入る

海に沈む夕日をバックに2人がキスをするシーン

勿論本当にはしない
少し離れた所からカメラが回り、逆光を利用して顔が重なる様に見せる

一発本番で撮り直しが出来ない事もあり、顔の重なる角度や距離感などを入念にリハーサルして、今は絶好の夕日待ちをしている所だ

監督の撮影サインがいつくるか分からない
そんな逸る緊張の中、スタッフ達と少し離れた崖っぷちに彼と2人っきりで立って待っていた

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