その手を取って

♯3 ページ3

「あの...手を離してもらえませんか？」
「貴方...北山さんというんですね やはりそうだったか…北山 宏光さんですよね」
「っ...」

あの視線は俺が北山 宏光かどうか見極めていたんだ

「俺、北山さんの大ファンでいつか一緒に仕事をしたくてこの世界に入りました でもその頃には北山さんが表舞台から姿を消してしまっていて...」
「.....」
「逢えてとても嬉しいです！」

手首を掴む力は緩まることなく、やや興奮気味に語るその姿にまだ俺のこと覚えてくれてる人がいたんだと言う嬉しさと過去の自分と比べられると思うと辛い

「ぁ ありがとうございます…僕はもう引退した身です それに藤ヶ谷さんはあの頃の僕よりも比べ物にならないくらいの人気で、そんな事言って頂けるなんて...」
「いえ！俺なんてまだまだ...北山さんは俺の中では常に1番なんで」
「.....」

手首を掴みながら語る度、更に力が篭ってきて流石に痛くなってきた
「あの...手を...」
「あっすいません」

慌てて手を離されたそこはうっすら紅くなっている

そこへ監督がやって来て
「美咲ちゃん病院に向かわせたけどこれからどうしよう 代わりのモデルは用意出来る？」
「あっ申し訳ございません 少しお待ちいただけますか」

手帳を取り出し広げ確認している隣で藤ヶ谷さんが監督にとんでもないことを告げた

「監督、代役は北山さんがいいと思います」
「北山くん？」
「えっ？」

慌てて目線を上げればこちらに笑顔を向ける彼と目が合う

「えぇ、今から代役のモデルさんを呼ぶにしても時間がかかります この後スチール、ムービー撮りを1日でやろうと思うとラスト夕日のshotが間に合わないと思うんです」
「...確かに...」
「ちょっと待ってください！うちのモデルのせいでこんな事になって申し訳なく思ってますが、僕では無理です しかも花嫁役ですし...」
「いや、でも北山くんの花嫁姿はいけるかもな」
「北山さん引退したと言ったけど今も体型は維持してますよね？歩き方も変わりなく綺麗だし」

...藤ヶ谷さんに見破られた....

もう立てないと分かっていてもあの頃の体型をくずさないよう、ジムには通っていた
いくら元モデルでも今回は花嫁姿
身長は高くない方とはいえ、誤魔化しがきかないはず 監督もGOサインは出さないと思う

「そーだな、北山くんに代役頼もうかな」
「え！？本気ですか？」

まさか監督まで了承するなんて

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