▼.ぬるま湯に映る微笑み ページ22
『無差別に人を殺すのは獣同然よ。
だから私、マフィアは嫌いなの』
彼女がそう言ったのはいつだったろうか。
私は、意外な言葉に驚いた。
守るべきと判断したすべてに対し公平な彼女は、誰にでもその傷だらけの手をさしのべる。
そんな彼女だから、守るべきと思ったならば、たとえどんな人間であろうとも____たとえマフィアでも____救おうとするのだと、勝手に思っていたのだ。
でも違った。
きっと彼女は容赦なく正義の鉄槌を降りかざすことだろう。
そのときから私は、彼女に触れることができなくなった。
「聞こえてるの!?」
「はいっ!?」
耳元で聞こえた大声に、思わずびく、とする。
そちらを見れば、腰に手を当てた、如何にも不機嫌そうなAが呆れたようにこちらを見下ろしていた。
「休憩はいつまで続くのかしら。
仕事してくれなくちゃ困るわ、太宰」
「そうだねぇ……あ、そうだ私、一寸用事が……」
そそくさと立ち上がりこの場から立ち去ろうとすると、ぎゅ、と彼女の手が襟首を掴んだ。
くえ、と変な声が出る。
「逃がさないわよ。
嘘が下手ね、太宰」
彼女の言葉に、ぐ、と喉を詰まらせる。どうも、私の脳は、彼女の前では随分とぽんこつらしい。
「……ごめんなさい」
小さな声で聞こえたそれに、思わず彼女を振り返る。Aの手は、襟首から簡単に離れた。
彼女は視線を下に落としたまま口を開いた。
「貴方、最近私を避けるでしょう。
……私が、何かしたのよね。
ごめんなさい……」
彼女は私に謝ると、肩を落とし、少し目を伏せる。長い睫毛がその綺麗な目に影を作る。
「どうか言いたいことは言って頂戴。
私……こんな言い方しか出来なくて、申し訳ないのだけれど、だからこそ」
至らない点は改善しなくては。
顔を上げた彼女は、ふわ、と柔らかく微笑む。
その微笑がどうしても好きなのだから、ますます“言いたいこと”が言い出せなくなる。
私が元マフィアであるということ。
社の何人に知られても、彼女の耳には届かないようにしてきた。
子供のような理由だが、彼女には嫌われたくなかったのだ。
それでも、知られてしまった。
対峙する彼女は、うつむいたまま口を開く。
「……知ってたわ、そんなこと。
マフィアは今も嫌いよ」
……あぁ、死んでしまいたい______。
「それでも好きになってしまったのだから、仕方ないでしょう?」
そう言った彼女は、私の好きな微笑みを浮かべた。
2019/9/22 硝子屋
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硝子屋(プロフ) - 猫また猫さん» 了承ありがとうございます。リクエストですね、少々お待ちください…… (2020年2月24日 23時) (レス) id: c0a77834dc (このIDを非表示/違反報告)
猫また猫 - すみません夢主ちゃんと社長は結婚していない設定でお願いします (2020年2月24日 17時) (レス) id: fa2d4be8dc (このIDを非表示/違反報告)
猫また猫 - 硝子屋さん» リクエスト失礼しつれいしますね!!福沢社長で子どもを預かる話をリクエストしたいです社長と夢主ちゃんは結婚している設定で (2020年2月24日 17時) (レス) id: fa2d4be8dc (このIDを非表示/違反報告)
猫 - あ、全然混浴でなくても大丈夫です!無理をさせてしまいすみませんでした (2020年2月24日 15時) (レス) id: fa2d4be8dc (このIDを非表示/違反報告)
硝子屋(プロフ) - 乱歩信者さん» リクありがとうございます!少々お待ちください…… (2020年2月20日 21時) (レス) id: c0a77834dc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:硝子屋+ソーダ | 作者ホームページ:
作成日時:2018年1月25日 6時