【文豪ストレイドッグス】ぎゅー と ちゅー で 君と 会話【短編集】

▼.伝わらない温度 ページ21

「はぁ〜、社長素敵だなぁ……」


社長の後ろ姿だけでうっとりしてしまう。しゃんと伸びた背中、隙のない立ち振る舞い。

本当にすごく格好いい。
はあ、とまたため息を溢す。


「……Aは、社長のことが本当に好きだね」
「もちろん!」


ちょっと引き気味にかけられた言葉に、けれど私は胸を張って答えた。
するとその人、もとい谷崎は苦笑を浮かべる。


「……何よぅ」
「いや……社長が格好いいのはそりゃ思うンだけど、Aは熱烈だな、って」


谷崎の言葉に、私は首をかしげる。
熱烈……? 社長のことは大好きだし、このくらい普通だと思っていた。
自分が格好いいって思う人には、これくらいの“好き”を抱くものなのでは?

谷崎はそういうの、無いのかな。


「……谷崎はナオミちゃんとかにこれくらい好きって感情無いの?」
「なッ、無いよ!
いや、無いっていうか……ナオミは妹なんだから、そういうのは……」


谷崎は顔を真っ赤にして首と手をぶんぶんと振る。ますますわからない。
そもそも、それじゃ谷崎はナオミちゃんをどう思ってるんだ?

私がさっきよりも角度を大きく首をかしげていると、谷崎は大きくため息を吐く。

そして、真面目な顔でこちらを覗き込んできた。


「Aの、社長に対する“好き”ってどういうのなの?」
「えぇ……? 普通に格好いいなぁって、素敵だなぁって思うぐらいだけど」
「なっ、なら、」


谷崎は少し頬を赤くして、私の手をぎゅ、と握る。その手がすごく熱くて、思わず視線を落とした。


「今、こうやッて手が握られて、どう思う!?」
「どう、って……」
「しゃ、社長を見るときみたいに、ドキドキ、したりとか……」
「えー、無いよ〜。だって谷崎だし」


そう答えれば、谷崎はがく、と肩を落とす。私は首をかしげる。何がしたいのかいまいちよくわからないのだけれど。

…………。

……谷崎の手って、意外と大きいんだなぁ。へろへろっとしている印象だったけど、指が長くてしっかりした、男の子の手だ。

まじまじと谷崎の手を観察していると、谷崎は悲しそうな声で、


「……じゃあ、どんな気持ちになるのか、だけ……」
「え?
ただ、谷崎の手って素敵だなあって」


そう答えると、谷崎は目を丸くしてぽかんと私を見つめる。そして、手を繋いだままずるずると崩れ落ちた。


「……そういうとこ……」
「谷崎?」


……本当に何がしたかったんだろう。




2019/9/16 硝子屋

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