81話 ページ35
彼は大柄なので、すっぽり体が収まっている。突然のことに全く抵抗できなかった私は、驚きすぎてピシリと石のように体を硬くした。数秒のハグの後、私から離れて彼が何やら大きくゆっくりと口を動かす。
『待ってるね』
そう動かしているように見えた。その意味を尋ねる前に、彼は大きく手を振ると、スキップしそうな勢いで部屋から出て行ってしまった。取り残された私は、訳もわからずに未だ固まる。
「……い、おーい」
動揺して凍った私の体と思考が解凍されたのは、スマイルさんが顔の前で手を振っていた時だった。
緩慢な動作で彼の方向を向けば、いつのまにか彼の机には何冊かの本が置いてあり、彼の手にも一冊の本が置いてある。タイトルは、『猿でもわかる!?手話のお話』
なんとなく察したが、これは、何ですか?という意味を込めてスマイルさんを見る。
「ぶるーくが、お前と会話したいんだと」
そのために手話を教えるのが俺だ、と言う。
こうして、(全くもって意味がわからないが)ほぼ強制的に私とスマイルさんのパーフェクト手話教室が始まって_____
_______って、
「できるかぁーーーー!!!!」
この部屋では喋っちゃダメ、という規則も忘れて叫んだ。突然の咆哮に、スマイルさんがギョッとして後ずさって、おずおずと手を自分と私の額に当てて首をかしげた。……違う、熱じゃない!
否定の意を込めて首を振り、この思いをジェスチャーで伝えることは不可能だったので、いつかのように借りていいですか、とサインしてメモ帳とペンを取った。レンちゃんが、目を見開いて息を呑んだ。
『お断りします』
「……何でだ?」
『私は新人のメイドです。やるべき仕事はたくさんありますし、ただでさえ目が回りそうな忙しさなのにこれ以上何かを覚えたらパンクします』
そう書けば、ふむ、とスマイルさんは顎に手を当てて考え込む。
ややしばらく経って、それじゃあこうしよう、と手を打った。
「ぶるーくに頼まれて了承した以上、お前には最低限の会話はできるようになってもらわないと困る。あいつは気まぐれだが約束を破るのは大嫌いだからな。けど、お前の言い分もわかった。だから、」
"休憩時間"もしくは"就業時間後"に俺の部屋へ来い。という言葉。
ブラックだ!!という悲鳴は、スマイルさんの耳には届かなかった。
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すみれ - 続編おめでとうございます!この作品とても好きです! (2022年10月23日 21時) (レス) @page2 id: a70cb7c9e5 (このIDを非表示/違反報告)
すみれいん(プロフ) - あの、ちょいちょき面白くてクスッと笑ってしまう所がありとても好きなお話です。これから続きを読んできます! (2022年7月19日 21時) (レス) @page50 id: a715f4eb82 (このIDを非表示/違反報告)
まほ(プロフ) - めっちゃこの小説が大好きで、この小説を読むでいる時間が一番幸せです(^-^)これからもよろしくお願いします (2021年9月16日 16時) (レス) id: dab527b906 (このIDを非表示/違反報告)
サンセットマリン - スカ一さん» はい、大丈夫です。よろしくお願いいたします。 (2021年9月16日 6時) (レス) id: 58697e3d5e (このIDを非表示/違反報告)
スカ一(プロフ) - サンセットマリンさん» おはようございます、お世話になっております。ご了承頂きありがとうございます。では、今回の件はこれにて終了とさせて頂きたく思います。また、作者名、作品名を伏せて事の経緯の説明を当方の作品内でさせて頂いてもよろしいでしょうか? (2021年9月16日 6時) (レス) id: c3f5308968 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:サンセットマリン | 作成日時:2021年9月7日 18時