79話 ページ33
「___はい、終わり!!手が触れてませんね?ということは捕まってません、つまり私の勝ちです!」
バッととびのいて、ぶるーくさんと距離を取る。手のひらを前に出して、だからストップ!と彼を威嚇するように止める。
祖国では、手のひらさえ触れていなければ逃走者の勝ち、というルールが適応されていた。もしこのルールが違えば、文化が違うということになってバレる可能性があるかな、と思ったが、ぶるーくさんはぽかんとして、
そして笑い出した。声は出ていないが、多分爆笑だった。バシバシと、遠慮なく肩が叩かれる。流石に加減してくれているのか、それほど痛くはないけど。
その姿は、ついさっきメイドを亡き者にしようとしていたものからはかけ離れていて、無邪気そのものだった。
ひとしきり笑った彼は、私に向かって手を出すと、何やら動かした。……記憶が正しければ、多分あれは手話というやつだ。そりゃあそうか、喋れなくなってしまったのなら手話くらいするだろう。
「えー……と……ちょっと、待ってくださいね」
手話、手話……なんだっけ。はるか昔に教授が教えてくれた気がするけど、少し齧っただけだし全ては覚えていない。真面目に覚えとくんだった、と後悔して、素直に頭を下げる。
「申し訳ありません。勉強不足で、手話は分かりません」
そう言うと、彼は少し驚いた顔をして、次いで、パァッと笑顔になった。
_______まって、やばい。本当に彼の思考が読めない。何故そこで笑顔になる?言語化してくれ、お願いだから。無茶言うなって感じだろうけど。
噛み合わないコミュニケーションに頭を抱えていると、不意に彼が笑顔のまま距離を詰めてきた。へ、と思う間もなく。
ふわり、と体が宙に浮き上がる。正確に言うと、胴体を掴まれて鉄骨でも持ち上げるかのような体制で小脇に持ち上げられていた。
「おぉおおぉえぁ!?!?」
あまりの出来事に変な声が出る私に構わず、彼はそのままの体制で歩き出した。揺れる景色に間抜けな悲鳴をあげる私を、何ごとかという表情で廊下にいた使用人たちが見て、スッと気まずそうに視線をそらされた。哀れまれているようにも見える。
_______いや、誰か助けろよ!!
という悲鳴は、口に出すことができないまま消えた。
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すみれ - 続編おめでとうございます!この作品とても好きです! (2022年10月23日 21時) (レス) @page2 id: a70cb7c9e5 (このIDを非表示/違反報告)
すみれいん(プロフ) - あの、ちょいちょき面白くてクスッと笑ってしまう所がありとても好きなお話です。これから続きを読んできます! (2022年7月19日 21時) (レス) @page50 id: a715f4eb82 (このIDを非表示/違反報告)
まほ(プロフ) - めっちゃこの小説が大好きで、この小説を読むでいる時間が一番幸せです(^-^)これからもよろしくお願いします (2021年9月16日 16時) (レス) id: dab527b906 (このIDを非表示/違反報告)
サンセットマリン - スカ一さん» はい、大丈夫です。よろしくお願いいたします。 (2021年9月16日 6時) (レス) id: 58697e3d5e (このIDを非表示/違反報告)
スカ一(プロフ) - サンセットマリンさん» おはようございます、お世話になっております。ご了承頂きありがとうございます。では、今回の件はこれにて終了とさせて頂きたく思います。また、作者名、作品名を伏せて事の経緯の説明を当方の作品内でさせて頂いてもよろしいでしょうか? (2021年9月16日 6時) (レス) id: c3f5308968 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:サンセットマリン | 作成日時:2021年9月7日 18時