69話 ページ23
side Nakamu
ある日突然、世界から香りが消えた。
正確に言うと、世界から消えたんじゃない。"俺の世界"から一切の香りが消えてしまった。
それに気づいたのは、祭りの翌日に目覚めてすぐのこと。いつも城を包んでいた香りは跡形もなく消え失せていて、それでわかった。
けど、俺はそのことを誰にも伝えなかった。伝えられなかった。……他のやつらはもっとひどい有様だったから。
あの時のことは____正直、もう思い出したくもない。
唯一全てが無事だったきんときは、目覚めた俺になかむは大丈夫かと今にも泣き出しそうな顔で聞いた。その表情は真っ青で、大丈夫じゃないと言おうものならおかしくなってしまいそうだった。
「_____大丈夫だよ、俺は、ちゃんと動ける」
精一杯の笑顔でそう言った。きんときは____いつもなら俺の嘘なんてすぐ見抜くあいつが____よかった、と言って本当に嬉しそうに笑った。なんとしてでもこいつにだけはバレないようにしないと、と。そう思った、それなのに。
食べ物から味が消えた。
考えたら当たり前だった。嗅覚は味覚と繋がっているんだから。
最初に普通の食事が食べられなくなって、大好きだったお菓子も食べられなくなって、みるみるうちに痩せた。病的なまでに。それで、結局きんときにもバレてしまった。
「なかむが食べられないなら俺も食べない」というきんときを、どうにか納得させた。あの時のあいつは本当にやりかねなかった。目と、耳と、足と、舌。全部潰そうとさえしたのだから。
けど、それからはあいつと食事を取ることはやめた。そうすると、きんときは悲しそうな顔をするから。
だけど、独りで飲み込む生命活動に必要な栄養素を摂取するためだけの液体はあまりにも虚しかった。
だから、せめて誰かと一緒が良くて、この状況になった時にいらないと言っても無理やりつけられたメイドとやらに食事を一緒に取らないかと誘ってみた。
結果としては_____怯えられただけだった。
そっか、俺幹部だっけ、と。その時初めて自分の地位を真に理解した。俺が声をかけるということは、誘いではなく命令と同義なんだと。
ぎこちない様子で、居ずらそうに急いで食事を___俺が食べられなくなった美味しいパンケーキを___飲み込むメイドを見て、不意に、"自分は誰にも必要とされていないのではないか?"と思った。
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すみれ - 続編おめでとうございます!この作品とても好きです! (2022年10月23日 21時) (レス) @page2 id: a70cb7c9e5 (このIDを非表示/違反報告)
すみれいん(プロフ) - あの、ちょいちょき面白くてクスッと笑ってしまう所がありとても好きなお話です。これから続きを読んできます! (2022年7月19日 21時) (レス) @page50 id: a715f4eb82 (このIDを非表示/違反報告)
まほ(プロフ) - めっちゃこの小説が大好きで、この小説を読むでいる時間が一番幸せです(^-^)これからもよろしくお願いします (2021年9月16日 16時) (レス) id: dab527b906 (このIDを非表示/違反報告)
サンセットマリン - スカ一さん» はい、大丈夫です。よろしくお願いいたします。 (2021年9月16日 6時) (レス) id: 58697e3d5e (このIDを非表示/違反報告)
スカ一(プロフ) - サンセットマリンさん» おはようございます、お世話になっております。ご了承頂きありがとうございます。では、今回の件はこれにて終了とさせて頂きたく思います。また、作者名、作品名を伏せて事の経緯の説明を当方の作品内でさせて頂いてもよろしいでしょうか? (2021年9月16日 6時) (レス) id: c3f5308968 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:サンセットマリン | 作成日時:2021年9月7日 18時