さん ページ5
しばらく無言で抱きしめられたあと、降谷さんはゆっくりと私から離れた。こうやって抱きしめられるのは今に始まったことでは無い
この仕事を始めてから一人でいることが多くなった。友人や家族とも距離を置かなければいけない。学生時代に関係が良好だった恋人とも私から別れ話を切り出した
そのときから人の温もりに触れることはなくなっていた
しかしこの人、私の上司の降谷さんだけは時々私に温もりをくれるのだ
それが迷惑だとか嫌だとかではないのだが流石に人前では恥ずかしいし人前じゃなくてもただの上司と部下という関係の私たちがこうなっているのは如何なものか
「ありがとうA」
『ん?』
「いや…なんでもない。疲れてるところ起こしてごめんな」
ポンと降谷さんの大きな手が頭に載せられた
この手でいったいどれだけの人を救って、どれだけ大きなものを抱えているのだろう
『降谷さんもお疲れでしょう…?最近ちゃんと寝てるんですか?』
「まぁ…いつも通りってところかな。でも疲れはだいぶ取れたよ」
『それなら、よかったですけど…』
きっと降谷さんの"いつも通り"は何日も徹夜しているということなのだろう
気がつけば窓の外が明るくなってきている。もう朝が来た
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作成日時:2024年2月28日 19時