じゅうはち ページ20
『私を…見ないで』
頭から僕の上着を被ったままAがそう言った
あの時僕はいち早くAを抱きしめてあげたかった。彼女の小さな体が震えているのが見えたから
しかし、僕はAに拒絶されることが怖くて彼女に触れられなかった。いつもならなんの躊躇いもなく触れているはずなのに。
そっとAに近づいて座り込んでいる彼女の前でしゃがみ込むと、微かに金木犀の香りがした
4月になったばかり、こんな季節に…と思ったが恐らく彼女の付けている香水の匂いだろう
普段の仕事では付けていないから新鮮な感じがした
「……あとで落ち着いたら連絡くださいね、必ず」
心苦しいが今ここにいても彼女は口を開いてくれないだろうし組織の人間に見られている可能性もある中、自らここに長時間身を置く必要は無い
ゆっくりと立ち上がって僕はパーキングへ戻った
そこにベルモットの姿はない。さすがにあの後ベルモットと2人きりになるのはごめんだと思っていたので好都合だ
そんなことより今はベルモットのことなんてどうでもよかった
Aが早くいつもの通りに戻ることを願うばかり
それにしてもあの季節外れの金木犀の香り、何かを思い出せそうな、そんな気がする
車を走らせながら少し窓を開けると、夜風が髪を乱す
車内に入り込んだ夜の匂いに、僕の小さな疑問は掻き消された
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作成日時:2024年2月28日 19時