ほくとの童話〜人魚姫２〜

５７　沖　北斗side ページ10

「樹！慎太郎！」

樹「北斗、お帰り…無事で良かった！」

たろ「北斗…俺のせいでごめん…北斗が帰って来てくれて本当に良かった…グスン…」

「…心配かけてごめんね。ただいま…」

泣きながら抱きついてくる慎太郎。
俺が人間界に行くことを、一番心配し、心痛めたんだろう。

「北斗…高地も待ってるから。南の海に帰ろう…！」

樹が俺の手を引いた。

「待って…！…俺、帰れないの。帰れないんだ！」

樹「北斗？何言ってるの…？」

「実はね、人間になった時に『華鱗』を無くしてしまったの。だから…海の中ではもう生きていけない。俺は海には戻れない…」


俺は海の泡になる事を覚悟をしていた。

生まれ故郷である南の海に『華鱗』無しに行くことは無理だ。

今日、樹と慎太郎に最後に会えただけで本当に良かった。

樹「…北斗…お前…」

樹は呆然としている。
当然だ。
人魚の命である『華鱗』を無くすなんてあってはならないこと。

「樹…ごめん…」

樹「バーカ、北斗。ほら、コレをお前の『華鱗』の場所に付けろ！」

「えっ…？コレって…『華鱗』？！」

樹が目の前に差し出して来たのは、虹色に輝く『華鱗』だった。

樹「お前が『華鱗』を無くしたのは俺たちはとっくに知ってたよ。だから用意した。これからはこの『華鱗』がお前の『華鱗』だ。桃色にしてやれなくて…ごめんな」

樹から虹色の『華鱗』を受け取った。
月明かりに照らされて…虹色に輝き、とても綺麗な『華鱗』だった。

涙がまた溢れて来て…止まらないよ。
樹の顔も、慎太郎の顔も涙に滲んで…見えない。

たろ「北斗…泣かないで、大丈夫だよ。これを付けて、南の海に帰ろう！」

俺は慎太郎に手伝って貰いながら、虹色の『華鱗』を付けた。

「北斗…海に潜ってみて？息できる？」


慎太郎に言われて、海に潜ってみる。

あ…息ができる。

俺、海で生きていける…？！


「慎太郎…大丈夫だった、息できるよ」

「良かった！…北斗じゃあ、南の海に帰ろう！」

「あ、ちょっと…待って！」

樹と慎太郎が海深くに潜ろうとした。
その瞬間、俺は浜辺から大我の声が聞こえたような気がして振り返った。

大我が…海に入って俺に向かって何か叫んでいる。
でも何を言ってるのかは聞き取れない。

大我の姿…これが見納めだね。

大我…ありがとう。
大我…さようなら。

大我…大切なお姫様と幸せになってね…。

俺は大我の姿を目蓋に焼き付け、南の海に戻る為に海深く潜って行った。

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