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俺は末期の母親に穏やかな最後を迎えさせたくて、高額な医療費が欲しかった。
大我は資産家である一族からの政略結婚を逃れる為、形だけでも籍を入れてくれる後腐れない相手を探していた。
『give and take』
俺たちは一年間だけの契約結婚をしたのだ。
「北斗こそ、なんであの日…出ていったの？俺はあの日、夕食を外で一緒に食べようねって言ってたでしょ？」
「だって…あの日が契約満了の日だったから」
「…北斗、気付いてたんだ…」
「…もちろん…だよ…」
大我との大事な契約満了の日だもの。
大我との幸せな結婚生活を送れば送るほど…意識せざるを得なかった。
ずっと来なければいいと思っていたから。
「北斗…俺たちの始まりは契約結婚だったかもしれない。だけど、俺は一緒に暮らしてるうちに北斗を本気で愛してしまった。俺の妻は生涯…北斗だけだ」
「……」
「だから、帰ってきてほしい。愛してるのは北斗だけ。北斗しか愛せないんだ…」
大我の言葉に心が揺さぶられた。
資産家の大我と、贅沢なんて一切せず日々細々と暮らしている俺。
俺と大我は住む世界が、生きる世界が、違うのだ。
契約結婚だからそんな身分違いの結婚もできたのだ。
愛を信じていいの？
損得勘定無しで、愛が根底にある結婚が俺たちにできるのだろうか？
躊躇っている俺に大我はそっと近寄ってきてポケットから何かを出した。
「北斗…これを」
俺の左手を取ると、薬指に慣れ親しんだ感触の結婚指輪を嵌めたのだった。
「この指輪はもう取らないで欲しい…それと…」
大我は結婚指輪の上に、更にダイヤが沢山並んでいる新しい指輪を嵌めたのだった。
「これ…って…？」
「北斗が出て行った日、契約満了のあの日の夕食の時に渡すはずだったんだ。
あの日、契約結婚は終わったけど、北斗を愛してるから…本当の意味で結婚して欲しいって改めてプロポーズする予定だったんだ」
「大我…！」
「北斗…愛してる。俺ともう一度、本当の結婚をしてください」
攫う様に、離さないとばかりに強く抱きしめられながら大我にプロポーズされた。
大我の温もり、匂い、全てが懐かしく愛おしくて…涙が溢れ出てきて止まらなくなった。
俺の細胞は隅々まで大我を覚えていて、無条件に大我を愛していた。
「北斗…返事は？」
「…ひっく…はい…よ、ろしく…お願いします…」
その俺の指に嵌っている指輪が、まるで微笑む様にキラリと輝いたのだった。
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作者名：おゆまる
| 作成日時：2022年1月23日 14時
