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呼べない名前(pink) ページ18

「捕まえた」

「京本…」

突然、走って逃げ出した北斗を追いかけた。



北斗が行く場所はいつも決まってる。

立ち入り禁止の誰も来ない屋上へつながる階段の踊り場。

踊り場の隅にうずくまる北斗を背後から抱きしめた。


「なんで逃げたの?」

「逃げてなんかない…なんでも…ない…」

「ふーん…そう?」

「京本、俺なんて追いかけて来ないで、早くみんなのところに戻りなよ…」


俺の周りで、たった一人、俺の事を『大我』や『きょも』ではなく苗字の『京本』と呼び続ける北斗。

なぜ北斗が俺を苗字で呼び続けるのかーーー理由は分かってる。


本当に北斗は臆病者だよね。


「ねぇ、京本…やっぱりさ、婚約は解消しようよ…」

「は?何言ってるの?」

「俺たちがどうしても嫌だったら、親は婚約解消しても許してくれるって言ってた。今どき、許婚だなんて…ナンセンスだよ」


北斗は何を言いだすんだか…。

今まで自由にさせていたツケが来たか…?


「俺は婚約解消なんてしないよ。予定通り北斗と結婚する」

「京本…でも!」

「でも?」

「京本はモテるして…京本、実は好きな人いるんでしょ?今ならまだ間に合う。京本は好きな子を選ぶことができるんだよ。俺は…京本に相応しくないし役不足だ」

「好きな人はいるよ、ずっとずっと大好きで、大事にしてる」

「だったらその人と…」


俺に背を向き続ける北斗を自分の方に向かせて、俯く顔を上げさせれば、瞳にはうっすら水の膜が張っていた。





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作者名:おゆまる | 作成日時:2022年1月18日 21時

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