【イナイレ】猛獣の闇 (ページ9)

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8話ページ9

――選考試合当日。
　多くのサッカーファンが、今か今かと新生イナズマジャパンに選ばれる選手を待ち侘びている。

『……すごいな。皆、期待しているのか』

「うん。きっとそうだよ」

　呟きに肯定したのは吹雪だった。彼の横顔に目をやると、希望と情熱に満ち満ちている。
　もう一度、すごい、と零してしまう。この試合が終われば世界選抜メンバーが揃い、そして彼らと共に世界を目指すのだ。はぁ、と感嘆の息を洩らした。

「待っててよ、雷音寺君」

『ああ。お前とも、サッカーがしたいよ、吹雪』

　嬉しそうに笑った吹雪が自陣のベンチへ戻って行った。
　各々のチームが集まって作戦の確認をしている背中を見て、うずうずする気持ちを抑えられない。あそこに混ざって、自分も、プレイをしたい。ここでおもいきりボールを蹴りたい。ぐっと胸を抑えて、逸る高揚をなんとか抑えた。

　小さく、誰にも聞こえないような声で頑張れ、と応援した。それが精いっぱいだった。

「A」

『……ヒロト、それに緑川』

　いいのか、ベンチに戻らなくて。そう訊くと、二人は大丈夫だと言うように頷いた。吹雪と同様に、二人の表情は喜々としていた。

「君は観戦か」

　緑川が腕を組み、口角を上げながらそう言った。雷音寺は今回は選抜試合のメンバーではないので、観客席に座って試合を見守る側に回っている。

『楽しみだな』

「え？」

『……これから、世界を目指すのか』

「……そうだよ。ここから始まるんだ」

　まるで夢みたいだ。信じられない、とも言える。普通の、ただサッカーが好きだっただけなのに、それが今世界を目指しているのだ。現実味を感じられない。

「それじゃあ行ってくるよ」

　ひらりと手を振った緑川と共に、ヒロトもまた踵を返した。その背中を見送って、さて、と観客席の方へと足を向けた。

「――世界と戦う……。そのためにもこの試合、全力でぶつかる!」

「新しい自分、新しい仲間……。僕は必ず、世界に行く……!」

「世界中の強い奴らが俺達を待っている……。だから俺は、ここで立ち止まってはいられない!」

　それぞれの思いを吐露する彼らの目的はただ1つ。今か今かと試合を待ち遠す観客たちの視線の先には、円堂率いるAチーム、鬼道率いるBチームの日本代表選考試合が始まるのだった。