【イナイレ】猛獣の闇 (ページ17)

今日:12 hit、昨日:1 hit、合計:42,788 hit

16話ページ17

その翌日のことだった。前夜雷音寺の言ったことは正確に当たることになる。
　

「壁山くん、いくらノックしても返事がないの……」

　それは、壁山が集合時刻間近になってもグラウンドに来ない、ということだった。
　今までの久遠からの厳しい指導、更には"呪われた監督"などという話を聞いてしまっては、人一倍気が弱い壁山も堪えるものがあったのだろう、練習に来るのだって億劫になってしまったのだ。
　そんな壁山の様子に耐えかねたのか、円堂は1人壁山の元へと向かった。

「壁山! 練習だぞ!」

　今頃すっかり閉じこもってしまっているであろう壁山の部屋の前まで来ると、円堂は努めて明るい声で部屋の扉をノックした。中に入ると、毛布をすっぽりと被り小さくなってしまっている壁山がベットの上にいた。

「キャプテン、ごめんなさいっす。俺、もう練習について行けないっす……」

　弱弱しい声に、円堂もどうしたものかと考える。壁山は怯えているようだった。得体のしれない監督に、今日も怒鳴られてしまうのかという恐怖心。それは理解できないというものでもなかった。

「なあ壁山。好きなんだろ? サッカー」

「……は、はいっす……」

　近付いた円堂は、丸まる壁山の肩をぽんと叩く。円堂の言葉に壁山はそっとその顔を覗き込んだ。きっと怒っているだろう、迷惑にも思っているかもしれない。そう考えていた壁山とは裏腹に、円堂の表情は明るかった。

「だったら負けるな! 辛いなら、辛いのごと楽しめばいいんだ!!」

「キャプテン……!!」

　それはまるで太陽のように暖かい言葉だった。今まで悩んでいた靄もすっと晴れ、壁山は明るい顔でベットから降りると、部屋を飛び出すような軽やかさで円堂と共にグラウンドへ向かった。彼の姿を見てか、メンバーは安堵した表情を浮かべ、また暖かく迎え入れた。

「負けないッス……! 俺、サッカー大好きっすからああああ!!!」

　そう叫びながら、壁山は小暮と宇都宮を振り切って走る。その気迫は昨日までとは全くの別人のようだった。

『――……大好き、か』

　雷音寺の瞳に、影が落ちる。