NO44 ●一年だけ ページ45
「イルミさん、新作ケーキどうですか？」
「うん、悪くないんじゃない。」
「良かった！新メニューに加えます！」
いつものようにAの部屋で話をしている2人。
「…イルミさん、私、通信制学校無事卒業できました。」
「そうなんだ、おめでとう。じゃあまたお店にいる時間戻すの？」
ケーキを食べながら聞いてくる。
「・・・実は…学校から手紙が届いて、首席だった事と最短で卒業できた事を評価して下さって、さらに一年間無償で勉強させてくれる事になったんです。」
「へぇ、そうなんだ、じゃあまた一年は今まで通り？」
「それが…」
少し話しづらそうにしているAを見て嫌な予感がする。
「…何？」
「あの、通信じゃなくて直接学校で勉強しないかって言ってくれてて…通うのが大変だろうからってそんな生徒用に寮を用意してるからそこで生活しながら通わないかって…」
「エイダさん、行ってきなって応援してくれて…私、行こうと思います。そうなったら一年間イルミさんに会えなくなっちゃうんです…」
「・・・」
一瞬彼女の言っている意味が分からなかった。寮で生活？一年間会えない？
「何で一年間会えないの？」
率直に疑問に思った事を聞く。
「一年間と書いてあるんですが、成績次第では一年以内に終わる可能性もあるとも書いてあって…勉強に集中するために一年間、家に帰らずに頑張ろうと思います。」
つまり、彼女は勉強のために一年間全てを投げ出してそこに行くと。オレとの時間より勉強を優先すると。その話を今されている。
「Aはそれで平気なの？オレに一年会えなくなっても？」
「平気じゃないです！もちろん寂しいです！それでも、こんな機会この先もうないだろうから、やりたいんです。」
またこの瞳だ。揺るぎない、強い意志。飲み込まれそうになる。
「わがままなのは重々承知で言います。一年、待っていてほしいです…必ず、必ずここに戻ってくるので…！その時はまた、こうして会ってくれますか？」
「・・・」
何でオレが我慢しなきゃいけないの？何のために？
それをしたらオレに何かメリットがある？せっかくキルもいなくなってオレの時間が増えたのに。
嫌だ、待てない。そう言おうとしたが彼女の強い意志の奥に見える悲しそうな瞳を見て言葉を飲み込んだ。
「・・・一年」
「…」
「一年だけ。」
「…！イルミさん！！ありがとう…」
Aが嬉しそうに笑ってる。彼女の泣いている姿は見たくない。笑っていてほしい。何故そう思うんだろう。
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作者名：301 | 作成日時：2023年8月7日 15時
