NO42 ●普通 ページ43
「や。」
「今日はいつも通りの時間だね。」
こちらに向けて手を挙げて座っている彼がいた。
「ただいま戻りました！イルミさん、どうしたんですか？この前来てくれたばかりなのに今日も来てくれるなんて。」
「何、嫌なの？」
「いえいえ、むしろ嬉しいですよ！ただ、どうしたのかなと思って！」
「オレがいつも訓練の相手してる弟が家の外で修行することになってね。しばらく家には戻らないからオレの時間が空いた。」
「そうだったんですか。」
「オレがそこに行った時は3年は戻らなかったからあいつも数年はかかるんじゃないかな。」
「3年も！3年も修行してたって事ですか⁈」
「そうだけど？」
「あの、改めて思いますが凄いですね…」
「そう？うちの家では生まれてからずっとそれが当たり前だから。オレも16まではそうだったよ。ありとあらゆる拷問に耐えられないと生きていけないからね。今は仕事中心になってきたけど。」
「・・・」
「どうかした？」
「…私、昔の記憶はないんですがイルミさんとは全然違う生活を送ってただろうなって事だけはなんとなく、分かるんです。そんな私がきっと正反対の生活を送ってきたイルミさんと出会えて、こうして今も仲良くできてるのがなんだか凄いなって…嬉しくて…」
「・・・」
依頼人やターゲットにこの話をした事が何度かある。皆口を揃えて同じ事を言う。
"狂ってる"と。
暗殺者として機械のように育てられてきた彼にとってはこれが"普通"だったから何とも思ったことがなかった。
だが今、こうして彼女と過ごすようになって初めて自分とは異なる生活、異なる"普通"を知った。
知った上でも、自分にとっての生活が今まで通り変わる事はない。ただ、自身の生活を知った彼女は自分の事を忌み嫌うのではないか。そんな思いがずっとどこかにあった。
だから彼女の言葉に驚いた。
今までの奴らとは違う、彼女のイルミ自身を受け入れた言葉に何も答えられなかった。
「イルミさん、お仕事大変だと思いますが、頑張ってください！いつでもケーキもご飯も作りますから！たくさん食べてね！」
「・・・うん。」
「早速、今からご飯作ってきますね！イルミさん、何が食べたいですか？」
「何でもいい。」
「はい！じゃあ食材見て決めてきます！」
家に向かう彼女の背中を見つめる。
「(あんなに気持ち悪かったモヤモヤが…気持ち悪くなくなってきた…？)」
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作者名：301 | 作成日時：2023年8月7日 15時
