NO15 ●モヤモヤ ページ16
ーガチャッー
「〈おかえりなさい！〉」
(…もういないんだっけ。)
静かになった部屋を見渡す。
(あいつがいたのが異常だっただけ。日常に戻った。ただそれだけ。あいつがいたのが異常だった…)
自分に言い聞かせるように頭の中で繰り返す。
彼にとってAとの出会いは全てが初めての経験だった。
産まれてから今まで家族とですら毎日顔を合わせることはなかった。父親は仕事で家を空けることが多く、訓練や仕事で母親と離れて過ごすことが当たり前な日々。次男のミルキは訓練や仕事以外で部屋から出てくることはない。唯一、三男のキルアだけが顔を合わせる機会の多い家族だ。彼の訓練は長男であるイルミの役目だった。それでも自身に仕事や訓練が入ると1週間会わない時だってある。
四男のアルカ、産まれたばかりの五男のカルトとは関わることがほとんどない。
初めて家族以外の年の近い人間と接し、会話をした。
初めて仕事以外で執事以外の他人と関わった。
初めて執事以外が作った料理を食べた。
初めて毎日同じ人間に会っていた。
初めて他人と《会話》した。
全てが彼にとって初めての経験だった。
(殺し屋に友達なんていらない。感情もいらない。)
(…何かがモヤモヤする。これが何なのか分からない。気持ち悪い。)
Aがお店に来てから1か月が経とうとしていた。
Aが来てからというものの、お店が繁盛することが多くなり、店は嬉しい悲鳴を上げていた。
「A！4番テーブルさんのできたよ！」
「はい！行きます！」
「C(カウンター)5番さんハンバーグ定食です！」
「あいよ！」
出会ったばかりとは思えない見事な連携で日々をこなしていく。
毎日があっという間に過ぎていった。
「はぁ〜！お疲れさん！今日も忙しかったね！」
「はい！今日初めて来たお客さん、エイダさんのお料理に感動して目がこんなに大きくなってましたよ！」
指で目を見開くA。
「アハハッそんな人いたのかい！」
「うん！お会計したあと、また来ますって言ってくれてましたよ！」
「嬉しいねぇ、Aが来てから本当に店がうまいこと回ってるよ！あんた、本当は幸運を呼ぶエンジェルかなんかなんじゃないかい⁈」
「エイダさん、私人間だよ〜！」
笑い合って家に入っていく2人。
その2人を追いかける人間がいた。
「コイン、赤くなった、コイン、赤くなった…。」
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作者名：301 | 作成日時：2023年8月7日 15時
