【オリジナル】―cross group― (ページ10)

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零の世界ページ10

『「零」がもつ本来の意味は「静かに降る雨」であり、「令」はお辞儀をして神様にお願いする様子を表し、「雨」と組み合わせることで、神様に願いが通じて静かに雨が降り始める様子を表現している。』
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20XX.5.21 雨が降っていた。

　無感情な鉛玉が頭部を突き抜け、泡立てるようにそこから膨張が始まっていく。やがてそれら泡は肉片となり、血液と一緒に四方八方に飛散する。祈りを託すよう語りかける悲愴な顔の額に大穴を穿たれた狂信者は、赤く濡れたリノリウム床に静かに崩れ落ちた。つい先ほどまで宿っていた生命の存在は、最後まで自らの信仰を疑うことなく、こう答えた。「我々は祈りを捧げた、ただそれが重要なのだ。この国は終わる。我々は使命を全うしたのだ」と。
　銃口から煙が上に向かって延びていく。一瀬照は、目の前の死体から逃げるようにそれを見詰めていた。別に人を殺したことによる罪悪感からではない。人殺しを生業としている彼からすれば、朝飯前も良いところである。そうではなく、狂信者________今一瀬の目の前に横たわっているこの男が残した言葉が何か気がかりで、その疑問を誰にぶつければ良いのか分からなかったからだ。懺悔でもない、断末魔でもないそれは、一体どれほど神に心酔していれば、出来ることなのだろうか。無神論者の彼には分からない。悲愴な顔、と言ったが、それは恐怖からそう連想したわけではなく、憐れすぎて見るに堪えないと言う意味を込めた表現だった。
　ノイズとなっていた雨の叩く音が正確に耳に伝わるのを感じ取り、教会内は湿気立つ空気と鉄の臭いで満たされていた。狂信者の男から流れ出た赤い液体は、すでに一瀬の足元に辿り着いており、スムーズに床面を浸食していく。見慣れた光景だが、先程の遺言が頭にしつこく付きまとうせいで、どうも居心地が悪かった。一瀬は耳朶に取り付けられた錠剤のような形と大きさをした鉄塊に触れ、オーグを開くと、視界に表示された画面に一言、「仕事は終わった」とだけ伝え、死体から背を向けた。
　こつこつと心地のいい軽い音が床に響く。出口に近付くにつれ、さんざめく雨の音でそれはかき消されていく。教会を出た。靴底を挟んで触れる柔らかい土の感触は小気味の良いものではない。すりつぶすような砂の音、かき混ぜられるような水の音、身体を叩く雨粒の音。今日は騒がしくて厄介な日だと、照はため息を吐いた。

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