午後6時17分 II ページ7
僕の次の発言を彼女は待ち構えるように腕を後ろに回し、尻込みをしている。仕方なく僕は普段から必要最低限にしか使わない脳みそを珍しくフルに活用して、頭の中を駆け巡る言葉の数々を丁寧に選抜し、口を開いた。
「……それは、信じるって言うか、信じたいの部類に入るんじゃないか。並行世界を信じる奴って、たぶん何か過去に後悔したことをやり直したいって思うから、そんな妄想に発展するんじゃないのか?『もしも』って言う言葉に取りつかれて、長い間ずっと未練がましく引きずっている、そんなどうしようもない奴の作り出したある種のフィクションなんだと、僕は思う。だからそれは信じるも何も、自分が体験できない以上はなんとも言えない」
「なるほど。じゃあ君は、幽霊は信じない派?」
「見たこともないものを簡単に信じたりはしないよ」
なるほど、と感心したように敬子は顎を親指と人差し指でつねり、考え込むような仕草から一転、今度は何一つ曇りのない笑みを一直線に僕に向けて、
「やっぱり、わたし貴方となら仲良くなれる気がするわ」
根拠のない見解にまた僕は眉を八の字にする。それでも敬子は、笑顔を絶やさなかった。僕は「気のせいだよ」とだけ告げて、彼女から文面に視線を戻した。
「あなたくらいよ? わたしの質問にこんなに真面目に答えてくれた人は」
失態を睨みつけるように僕は舌打ちをしかけたが、それは彼女にあまりに失礼だろうと思い、代わりに咳払いをして弁解の猶予を取った。再び顔を上げる。僕が言い出す前に、彼女は付け加えるように、
「たいていの人は『何いってんのお前』、『頭大丈夫かー』って言うのに対して、君は戸惑い嫌がりつつも、しっかりと答えてくれたよね。それは、私や私の言動に少しでも興味を持ってくれている。ってことで解釈しても良いかな?」
「……ご想像におまかせする」
僕の苦し紛れな言葉に、彼女はまた笑った。
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作者名:app shiyama | 作成日時:2017年12月31日 12時