午後6時17分 ページ6
『それでも僕は何度でも』
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「君はさ、並行世界って信じる？」
机に突っ伏して本を読む僕に、多々羅敬子は絶妙なタイミングで狙ったかのように窓側にもたれかかって、瞳にかけていた瞼をゆっくりと持ち上げて、そう問い掛けた。あまりに唐突だった質問に、僕は拍子抜けして「は？」と声を漏らす。突き放すような口調で言ってしまったため、少し苦みのある後悔が頭にぽつんと取り残された。しかし、その勢いでこの話が終わってくれるならと僕は相手の表情をうかがっていたが、彼女は澄ました顔を崩すことなく、むしろ右手で口をおさえて「うふふ」と上品に笑った。
「とある人物のとある選択を分岐点として、複数の展開に分割される、あれよ」
「それは知ってる。僕が驚いたのは、ふだん滅多に口を聞かない僕に、君がなんでそんな質問を投げかけてきたことのかってことだ」
分からないなら教えてやると言う風に、僕は微かな苛立ちをこめて丁寧な説明をした。彼女はそれを煽るかのようにまた微笑む。席に座っている僕と立っている彼女とで、僕が彼女を見上げるような形になっているため、いつもは前髪に隠れている彼女の瞳が今日はよく見えた。外側から黒いわっか、焦げ茶のわっか、黒い丸、と言った並びで円形の層を成しており、その上に浮かぶハイライトが美しさを引き立てていた。見るだけで滑らかな感触であることが伝わるツヤの多い綺麗な茶髪は、妙に脂身を感じさせず、重力に対して無抵抗に下に真っ直ぐ流れている。こうして見詰めてみると、わりと敬子は整った顔立ちをしている、良く言えば可愛い顔の持ち主だと思う。
その美貌を駆使してクラスの中心に立つことも出来ただろうに、変人扱いされるのが大好きな彼女は、クラスの皆から異形の存在を遠くから眺めるように疎まれていた。実際、敬子は変だった。変人と言う言葉は、きっと彼女のためにあるのだろう。
一瞬苦笑いにも捉えられた彼女の笑顔に、僕は突かれてはいけないところを突かれたような不快感を覚えた。それに促されるように僕の眉間にシワが寄ったのを察知した敬子は、今度は申し訳なさそうに口角を上げた。この女は感情表現をするにおいて、笑顔が欠かせないのだろうか。ふとそんなどうでもいい疑問を持った。
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作者名：app shiyama | 作成日時：2017年12月31日 12時
