僕と彼女の食卓は III ページ3
「今日も人から怒られちゃった。クラスに入り込めない子がいたから、諭してあげたの。でもしばらくしてから担任の先生と、その子の母親がおしかけてきてね。うちの子に変なこと吹き込むなーって」
僕はハンバーグを半分くらい腹の中に入れたところで、フォークを置き、適当に相槌を打ってから問い掛けた。
「なんて言ったの?」
「『小学校で友達なんて作っても意味がないんだよ。社会に出ても付き合える交友関係なんて、せいぜい高校生とか大学生が良いところなんだから』って」
「ずいぶん難しいことを小学生に言ったんだね」
彼女の言ったことに、僕はあながち間違ってはいないと思った。けれど、正論を吐けば良いってものじゃない。相手が子供であるなら尚更だ。子供は夢を語り、大人は現実を諭す。価値観の違いに水を差すようなことがあってはならないのだ。彼女の気持ちは分かるし、それを怒った母親の気持ちにもなれなくはない。それもまた、価値観の違いなのだろうけれど。母親はきっとそれで正常なんだ。歪んでいるのは、彼女の方なんだ。それにジャッジをするのはどうしようもないことだし、強いて二人を善悪に分けるのならば、母親が善で彼女が悪だ。いつか彼女にも、それが分かって欲しいと僕は思う。しかし、三年間そばで彼女を見てきた者として言わせるなら、彼女がまともな人間になるには、果てしない時間が必要だろう。三年なんて馬鹿げてるくらいに。
言い忘れていたが、彼女の職業は小学校の教職員である。主に相談室で生徒の悩みを聞くと言う仕事で、評判が良いのか悪いのかは普段の彼女の話から判断できる。早く解雇されてしまえと常々思っているが、彼女の自暴自棄が悪化するのは危うい。職員もきっとそれを考慮して彼女を今の職に留まらせているのだろう。実際、彼女はこの仕事を気に入っているようだった。
今や彼女はちまたで未確認生物のような扱いを受けていた(今さら評判とかを気にする必要もないのかもしれない)。しかしその評価は彼女が彼女自身を蔑むには十分なネタだったようで、食卓での彼女の口数は増すばかりだった。その都度、僕は自分の味覚が薄れていくのを感じた。
「それはきっと気のせいだろう?」
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作者名:app shiyama | 作成日時:2017年12月31日 12時